ルヴィカ
「速く歩けよ、人殺し」
そう言って少年は目の前を歩いていた少年の背中を突き飛ばした。
「うわっ!」
蹴飛ばされた少年はそのままの前のめりに倒れ込み、近くに溜まっていた水溜まりに頭から突っ込んだ。
それを見て、他の少年達が声をあげて笑う。
「汚ー!」
「いい様だな、ルヴィカ」
ルヴィカと呼ばれた少年は泥水を拭うと自分の前に立ちはだかる少年達を睨む。
いや、リーダー格である一人の少年を。
「おいらは人殺しじゃない、ローエル」
「でも、お前の親父は人殺しだろ?」
ローエルは吐き捨てるように言うとせせら笑う。
「父様が言ってたぞ、お前の親父が建てる家は全部欠陥だってさ」
「違う!」
「だからお前の父親も母親も「黙れぇぇぇぇ!!」
ローエルに掴みかかろうとした瞬間、ルヴィカを周りで見ていた少年達に押さえつけられた。
「放せっ!親父は人殺しなんかじゃない!!」
「まじ、こいつうるさいんだけど…」
「黙らせようぜ」
そう言ってローエル以外の少年達が、ルヴィカを殴ろうと地面に叩きつけると囲む。
「死なない程度にな」
ローエルの号令でルヴィカを殴り始める。
「何してるんだ?」
背筋が凍りつきそうな冷たい声。
その声にその場にいた少年達が一斉に振り返った。
そこには男とその後ろで、おどおどしている女がいた。
「誰だ、あんた?」
「別に。ただの通りすがりだが?で、何してる?」
男の言葉にローエルは鼻で笑う。
「関係ないだろ?それにお前、観光客か。僕にそんな口聞いていいと思ってるのか?僕は「うるさい、目障りだ」
男はそう言って持っていた剣の鞘を引き抜く。
剣からは冷気が溢れだし、ローエルを怯えさせるには十分だった。
「チッ、興が冷めた。帰るぞ」
ローエルの言葉で周りの少年たちはその場から逃げたした。
それを見届けると、剣を鞘に戻す。
「ちょっと!アンリ!!やり過ぎなんじゃない!?すっごい怖がってたよ!」
「お、落ち着けって、シャロン」
アンリは苦笑すると泥水の中で尻餅を着いたまま唖然としているルヴィカに手を差し出す。
「大丈夫か?」
「…あんた、一体…」
「俺はアンリ。で、こいつはシャロン」
「おいらは、ルヴィカ…」
さっきとはうって変わって優しい笑みを浮かべる。
ルヴィカはその笑みを見て気を許したのか、アンリの手を掴むと立ち上がった。
「あー、びしょびしょね」
シャロンはカバンからタオルを取り出すと、ルヴィカに差し出す。
「ありがとう」
「で、あいつらは一体なんなんだ?」
「…」
アンリの質問にルヴィカはムッと黙り込む。
「言いたくないなら別にいいけど…。とりあえず、家に送っていくよ」
アンリの言葉にルヴィカは首を横に振る。
「いい」
「まあ、そう言わずに。両親に聞きたいことあるし」
「おいら、両親いないし」
「え!?そうなのか…」
あからさまに残念そうな顔をするアンリにルヴィカは首をかしげた。
「何を聞きたかったんだ?」
「いや、安い宿が無いか聞きたかったんだけど」
そう言ってアンリはシャロンの方を見る。
「やっぱり野宿かな?」
「えー!」
シャロンは心底嫌そうな顔をする。
「…おいらん家に泊まる?」
「え?」
「助けて貰ったし。…同居人に許可取らないとダメだけど」
アンリとシャロンは顔を見合わせる。
「まあ、汚いし…狭くていいなら」
「「よろしくお願いします!!」」
声を揃えて言う二人にルヴィカは驚いたが、苦笑すると頷いた。