岩山
「シャロン、もうそろそろ着くよ」
その言葉にアンリの少し後ろを歩いていたシャロンが、顔をぱぁっと輝かせた。
「ほ、本当!?」
アンリはニッコリ笑って頷いた。
「ああ、あの岩山を越えれば着く」
「…」
アンリが言う岩山は、今まで三個ほど越えた岩山よりは小さいが越えるには半日は掛かるだろう。
絶望。
シャロンの頭に浮かぶ二つの文字。
がくっり膝をつくとシャロンが喚き始めた。
「わー!もう、無理!!嫌だ嫌だ、いーやーだー!岩山、普通の山より登りづらいんだもん!」
アンリは腰に手をあてて、ため息をつく。
「んなこと、言われてもなぁ。あれを越えないとジオーグの街に辿り着けないんだけど」
「うぅ…。もっと、楽な道はなかったの?」
「あるにはあったけど、レコム村が滅ぼされた噂は遅かれ早かれ、流れるはずだ。そんな時に俺たちがレコム村の方から来たのがバレれば、下手しら捕まるかもしれないだろ?」
「そうかも…しれないけど…」
レコム村からジオーグまでの道中には二、三個村がある。
しかも、村を通るルートであれば道はここまで険しくなかっただろう。
だが、他の村で容疑者として捕らえられてしまえば全てが終わってしまう。
だから、あえて険しい道を選んだのだが…。
「ここまでキツいと思わなかった…。二週間も岩山を超えるなんて聞いてない」
「まあ、言わなかったしな」
「酷い!」
シャロンはぷぅっと頬を膨らませると、額に流れる汗を拭う。
季節は遂に、謳歌の月から焦燥の月へと変わろうとしていた。
太陽の日差しが段々と痛くなってくる季節である。
「ほら、そんなこと言ってここでジッとしててもジオーグにはつかないぞ?」
「わかってるよ」
シャロンはそう言って、差し出された手を掴むと立ち上がる。
「一度くらい叫びたかったの」
「二週間の間、結構叫んでたけどな」
「るさい」
シャロンはアンリを一喝した。
アンリは肩をすくめる。
「全く、あの頂上まで行ったら休憩を入れよう」
「えー、もっとマメに取ればいいのに…」
「野宿するか?」
「よし、頑張ろー!」
二週間も固い地面に寝てるのだ。
今日こそ柔らかいベッドで寝たい。
シャロンがやる気を出したことにアンリは安堵すると、歩き出す。
シャロンは小走りをして、アンリの隣に並ぶと首をかしげた。
「にしても、こんな険しい山の中に作られた街ってどんなところなのかしら?」
「前に来た旅人の話だと、職人の街だとか言ってたな」
「何の職人?」
「建築関係だって、街並みはすごいらしいぞ。…王様も貴族も皆、ジオーグの職人に依頼するらしい」
「すご!ちょっと楽しみになってきたなぁ」
「だろ?ただ一つ心配なことがあるんだよな」
「え?何?」
突然、深刻な顔をするアンリにシャロンは心配そうな顔をする。
「道中で、狩った魔物の毛皮は高く売れるかな?」
「えーと、どうだろうね…?」
シャロンは苦笑すると、これから向かうジオーグに思いを馳せた。