新魔王
「クビって…何で?」
アンリの質問にルナは肩をすくめた。
「さぁ?新しい魔王様が私たちは必要ないって言ったのよ。だから、理由なんてわからない。でもさ、私たちはずっと魔族のために働いて来たのに酷いと思わない?」
ルナはぷくっと頬を膨らませると、さらに愚痴をこぼし始めた。
「私たちの糧は魔力を含んだ血だって知ってるくせに偉そーに!!前の魔王様なら絶対こんなことしないのに!!」
キーっ!とわめくルナにアンリは困った顔をして、シャロンを見た。
シャロンはため息をつく。
「前の魔王様ってそんなにいい人だったの?」
シャロンの言葉にルナはブンブン首を縦に振る。
「あったこと無いけど、すっごい優しい人!吸魔族
に無理な仕事とか言わなかったし、奴隷扱いもされなかったし!…なのに、今はあいつのせいで種族は一緒に暮らせないし、飢えに苦しむし。良いことなんて何一つ無い」
さっきまでの勢いは無くなり、ルナは悲しげな顔をして俯く。
「今の魔王様のせいでおかしくなっちゃった。魔族も世界もみんな…」
「そっか…」
シャロンはそれ以上何て言っていいかわからなくなり黙りこむ。
村人、全員殺したこの子にも事情があるのだと思うと同情してしまう。
「もしかして同情してくれてる?あなたは優しいんだね。…じゃあさ、貴女の血を私にくれない?」
「ひっ…!」
その言葉にシャロンが怯えると、二人の間にアンリが割って入りシャロンの壁になる。
「シャロンはダメだ。彼女の血をルナにあげるわけにはいかない。代わりに俺のをやるよ」
「アンリ!?」
シャロンの叫び声に、アンリは安心させるように笑いかけた。
「へぇー?庇うだなんて、その子の事愛してるんだ?」
「あいしてる?…よく、わからないけどシャロンを傷つけることは許さない。それに質問にも答えてもらったしな」
「まあ、何でもいいけど血を貰えるのは嬉しい」
「その前に最後の質問な」
アンリは立ち上がると、氷月華を鞘から引き抜くとルナの首に突きつけた。
「…私を殺すつもり?」
「場合によっては、かな」
そう言うアンリの目は氷のように冷たい。
「場合って?」
「レコム村の人々を皆殺しにしたのはお前の仕業?それとも、魔族の仕業か?」
「魔族の仕業よ。もちろん証拠なんて無いけど、信じてくれる?」
「魔族の仕業だと言うなら、名前わかるか?」
ルナは少し考えると頷く。
「二人いて確か…一人はエドウィンとか呼ばれてたと思う」
「エドウィン!?」
予想していなかった言葉にシャロンはサッと顔を青ざめさせた。
アンリは黙って頷くと、ルナに氷月華を振り下ろす。
「!?」
ルナは驚いて目を閉じた。
暗闇の中でバツンっと音が鳴り響く。
目を開くと縛られていたロープが切られていた。
「信じてくれたの?」
「レコム村にエドウィンの魔力が残ってたしな。そうだろうと思ってた」
アンリの言葉にルナは目を丸くする。
「他人の魔力を感じ取れるの?」
「まあ、半分だけど魔族だからな」
「へぇ、あんまり聞いたこと無いけどすごいね。…で、血はくれるのかしら?」
アンリは苦笑すると袖をまくり腕を差し出した。
「どうぞ」