従属
レコム村から少し離れた森の中で、アンリとシャロンは野宿する事にして夕食の準備に取りかかっていた。
結局あの後も、村の中をくまなく探したがやはり生きている者はいなかった。
シャロンはため息をついて、汲んできた水の中にタオルを浸した後、吸魔族の女の額にそっと置く。
「全く…。何で襲った人の看病なんかしてるのよ」
「そう言わずに。…普段なら、吸魔族は他の種族なんか襲わないんだ。何か理由があるのかもしれない」
「理由…?」
「そう。…うん、いいかな。シャロン、味見してみて」
アンリはそう言って皿をシャロンに差し出す。
「わー、今日はシチューだ」
シャロンは早速、味見をしてみる。
「美味しい!」
アンリは嬉しそうに笑う。
「よかった。…あ、起きたみたいだな」
「…ん?…あれ?ここはって…何で、私は縛られてるの!?」
吸魔族はジタバタするが、身体にグルグル巻にされたロープは全く解ける様子はない。
しばらく暴れたが途中で力尽き動かなくなる。
「…うぅ、お腹すいた」
「その点についていくつか聞きたいんだが、いいか?」
アンリはそう言いながら、シチューを少し深めの皿に注ぐとシャロンに渡す。
「お腹すいた人の前でご飯食べる?普通…」
「ご、ご飯って…私達の血でしょ!?」
シャロンの言葉に吸魔族は頷く。
「だって、それが私たちのご飯だもん」
「な、「シャロン、ここは俺に任せてくれないか?」
“な?”と言われてシャロンはため息をつくと、焚き火の近くに座り込むと、シチューを一口食べて黙り込む。
「さて、と。…シチュー食べれるか?」
「あんまり好きじゃないー。ていうか、血以外は好きじゃない」
「でも、食べてみろよ。少しは足しになるかも?」
アンリは吸魔族を起こすと、シチューを掬ってスプーンを差し出す。
「…ま、食べてみてもいいけどさぁ」
あむ、と一口食べると吸魔族は目を丸くした後少しムッとする。
「ま、上手いと思う」
「よかった。…で、名前は?」
「ルナ」
ルナはボソッと呟く。
「もう一口どう?」
「…もらう」
ルナはもう一口食べると少しだけ、頬が緩む。
「そろそろ話が聞きたいんだけど、吸魔族は普段は魔族に従属のはずだ。魔族の血と魔力を貰う代わり魔族の命令は何でも従う…。そんな関係の筈なのに何で、腹をそんなに空かせてる?ルナは一族から抜け出したのか?」
ルナは首を横に振りうんざりしたような顔をする。
「違うわよ。…私たちは魔族にクビにされたの」
ルナの言葉にアンリと黙っていたシャロンは顔を見合わせた。