吸魔族
「大丈夫ですか?」
シャロンは座り込んでいる女性に声をかけ手を伸ばす。
それに気づいて女性の肩がピクリと動く。
「…!シャロン!!」
「え?うわっ!」
怒声と共にアンリに抱き寄せられると、女性から飛び退き離れた。
「な、何なの!?」
状況が飲み込めないシャロンが女性の方を見ると、女性がさっきまで自分が居たところに手を伸ばし宙を掴んでいる所だった。
「あーあ、逃げられちゃった。…せっかくのご飯だったのに」
残念そうに女性がそう言って顔をあげるのを見て、シャロンは小さく悲鳴をあげる。
女性の瞳が血のように赤い。
「何、あれ…」
「近くまで行かないと気づかなかった。吸魔族だよ、シャロン」
聞いたことのない種族にシャロンは首をかしげた。
「きゅうまぞく…?」
「魔力がある者の血と魔力をを吸って生きている種族だ」
アンリの言葉に吸魔族の女は頷く。
「大正解、私お腹ペコペコなの。この女の魔力少なくって全然お腹の足しにならないし。だから、私にご飯ちょーだい?」
そう言って、女は自分の爪を伸ばすと地面を蹴り飛ばし一瞬で、アンリとの間合いをつめる。
「!?」
その速さにアンリは目を見開き、驚くと氷月華で受け止めるとそのまま女を弾き飛ばす。
女は宙でヒラリと一回転すると、再び襲いかかってくる。
「速くて攻撃できないっ!」
シャロンはユエルスを構えるが、狙いが定まらない。
そんなシャロンの後ろに女が現れた。
「シャロン!」
叫ぶと同時にアンリは氷を放つ。
だが、女に当たることなく軽々と避けられた。
「どうしよう、攻撃ができないよ…」
焦るシャロンにアンリはしばらく考えたあと頷く。
「俺に任せてくれ」
女が再び体勢を調え、襲いかかろうと構える。
アンリは氷月華を地面に突き刺すのと、同時に瞬時に女が間合いをつめる。
目の前に現れた女にシャロンは顔を真っ青にさせ、剣を地面に突き刺したまま動かないアンリにしがみつく。
「アンリ!」
動かないアンリにシャロンが叫ぶ。
女はニヤリと笑って爪を高く掲げ振り下げるのと、同時に足を一歩踏み出す。
その刹那、突然女は足を何かに取られそのまま頭から地面に倒れ込みそのまま気を失う。
「へ…?なんで?」
シャロンは唖然として、気を失った吸魔族の女を見つめた。
アンリは安堵したように笑う。
「高速移動が得意みたいだから、地面に薄く氷を張ってみたんだ。転んでくれればチャンスがあると思ったんだけど…まさかの展開でラッキーだったな。…取りあえずこいつから話聞きたいから、縛ろうか」
アンリはそう言ってロープを取り出すと女を縛り始めた。