最優先事項
怖いくらい静まり返った村。
そして、村の入り口からでもわかるむせ返るほどの血の臭い。
シャロンは鼻を押さえて呻く。
「何…これ…!何があったの!?」
「あんまり良くないことが起きてるのはわかるな」
アンリは顔を引きつらせながら、答えるとシャロンと向き合う。
「シャロンはここで待っててくれないか?俺が村の様子を見てくるから」
シャロンは首を横に振る。
「私も行く!何があるかわからないし」
「衝動に…耐えられるのか?」
アンリの言葉に悩んだ後、頷いた。
「辛いのは、アンリも一緒でしょ?…大丈夫、だよ」
強がるシャロンを見てアンリは苦笑した。
「わかった。…俺から絶対離れるなよ」
アンリはそう言って氷月華を鞘から引き抜く。
シャロンには言ってないが、この村からは知ってる魔力の気配と知らない魔力を感じる。
それも三つ。
一つは、リラースタンで会ったリズという魔族の魔力。
そして、もう一つは…。
「エドウィン…」
アンリは声を押し殺して、唸る。
「アンリ大丈夫?顔色が悪いよ?」
「あぁ、大丈夫」
アンリは首を横に振り、もう一つの知らない魔力を探る。
その魔力はアンリにとって初めて感じるものだった。
得たいの知れない何かが、この村に潜んでいる。
アンリは唾をゴクリと飲み下す。
緊張しているアンリを見て、シャロンはユエルスを出した。
「いざとなったら、私も戦うよ」
「ありがとう。…頼りにしてるよ」
「任せてよ」
アンリは深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。
得たいの知れないモノがいても、エドウィンがいても関係ない。
何があっても、シャロンだけは守る。
それが最優先事項だ。
たとえ、自分の命を犠牲にしても。
アンリは覚悟を決めて、氷月華の柄を強く握りしめた。
“自分の命をもっと大切にしなさいよっ!”
不意にこの前、シャロンに怒られたことを思い出しアンリは思わず笑みを浮かべた。
今、思い出しても嬉しくなる言葉。
自分が生きていることを許されたような気がした。
それからアンリは首を横に振って、シャロンに笑いかけた。
自分を犠牲にするのは、今は無し。
今はどうしたら、二人で生き残れるのかを考えるのが最優先事項だ。
最優先事項を、確認し直すと気合いを入れ直す。
「よし、何かあったら二人で直ぐに逃げるからな」
「わかってるわよ」
「じゃあ行くぞ」!
そして、二人はレコムの村へと足を踏み入れる。