料理
「夢?」
シャロンは朝食である硬いパンをちぎりながら聞き返した。
「そう、寝込んでるとき不思議な夢をみたんだ」
「へぇー。どんな夢だったの?」
「白い女の子が出てきて“何を望む?”って聞いてきたんだ。で、その後に“次に会うときまでに考えておいて”って言って何かを渡された」
夢の中で感じた右手の違和感は、今でも感じていた。
アンリは自分の右手を眺める。
「何を渡されたんだろう?」
「さぁ?夢だしあんまり気にすることないんじゃない?…でも、そうね。望みを言って叶うなら、私だったら料理の才能を望むわね」
そう言うシャロンの目線の先には、黒い物体があった。
「しゃ、シャロン。しょうがないって!気にすることないさ!」
「うわーん!アンリが病み上がりだから、栄養のあるものを食べさせてあげたくてオムレツを作りたかったのに…!」
結果、黒焦げ。
リラースタンを旅立って一日が過ぎ、キナから貰った弁当も無くなったから意気揚々と作ったのに。
お菓子を作るのは、得意なのに料理となるとうまくいかない。
ため息を付くシャロンにアンリは、肩をポンと叩く。
「今度俺が料理教えてやるよ」
「はう…。な、何て言うか女の子としてどうなんだろう」
シャロンは硬いパンを噛み締めると、ため息をついた。
「さて、朝食を食べたらレルムさん達に頼まれごとを済ませよう」
「うん。話によるともうすぐだよね。地図でもここら辺だし…」
シャロンの言葉にアンリは頷いた。
「レコム村って書いてあるな。どんな守護者だろうな?」
「やっぱり師匠とか、レルムさん達みたいに強いんだろうね」
「そうだな。…さて、行くか」
アンリは残りのパンを口に放り込むと立ち上がる。
それを見てシャロンも慌てて食べ終わらせた。
「後、一時間くらいか?」
「ついたら、美味しいものを食べさせてあげるね!」
アンリは苦笑した。
「気にしなくてもいいのに」
「気にするよ!ああ…、せっかくの新鮮な卵が…」
シャロンはそう言って黒焦げにした、オムレツになる予定だった残骸を見た。
「せめて魔物には食べてもらえますように」
シャロンはささやかな願いを呟いて、アンリと共に旅を再開させた。
そして、一時間後。
二人はレコムの村に着くと立ち尽くした。