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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第三章
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別れ

‐次の日‐


「忘れ物は無いか?」


 シエラに声をかけられアンリは苦笑して頷いた。

 

「元々、荷物なんてあんまりなかったし。何か忘れてたら捨ててくれよ」

「捨てるわけ無いだろ?届けてやるよ」

「じゃあ、再会できるようにわざと忘れるか」

「…やっぱり捨てるか」

「酷っ!」


 落ち込むアンリにシエラは笑い声を上げると、頭をワシャワシャと撫で回す。


「冗談!…もっと、ゆっくりして行けばいいのに」

「俺達の旅は急ぐからな」

「そっか、呪い解けるといいな」

「解いたら、真っ先にシエラ達に教えにいくよ」

「まじか!そん時はキナに上手いもん作って貰おうぜ」

「いいな、それ!」


 アンリは嬉しそうに答えると、立ち上がった。


「そろそろ行かないと」

「…そうだな」


 そして、二人がテントから外に出るとシャロンを始め団員全員が待っていた。


「アンリ、遅い!」

「悪い、悪い。もう行けるか?」


 シャロンは頷いた。

 少し腫れたシャロンの目を見て、さっきまでチコ達と別れを惜しんで泣いていたのだろうと察しがつく。


「さて、これは俺からの餞別だ。途中で食いな」


 キナがそう言って二人にお弁当を渡した。

 その後にトトが二人の前に来る。


「気を付けてな。最近、やたらと物騒だからな」


 そう言った後、トトはアンリの耳元まで口を寄せた。


「メイヤーを泣かせたら、ぶっ飛ばす「兄さん!!」


 メイヤーは怒鳴ると、トトの耳を引っ張りアンリから引き剥がした。


「もう!余計な事を…。アンリ、シャロン。気を付けてください、元気で」


 メイヤーはそう言ってシャロンに微笑む。


「今度会うときまでに、シャロンに勝てるように頑張りますね」

「それってどういう意味!?」


 驚くシャロンにメイヤーは意味深に笑うと、今度はアンリに視線を向けた。


「その時は貴方に振り向いて貰うつもりなので、お願いしますね」

「…え?あ、あぁ…」


 首を傾げながら頷く、アンリにメイヤーは苦笑して兄の元へと戻る。


「アンリ、シャロン、今回は迷惑しかかけなくてごめん。今度は一緒に戦えるように頑張るからっ!」


 目に涙を溜めて言うチコにシャロンが優しく抱き締めた。


「大丈夫だよ。無理しないで?ワイバーンが襲って来たらまた私が追い払ってあげるから」

「ありがとう。気を付けて」


 チコは涙を脱ぐって笑うと座長に、場所を譲る。


「我々はしばらくリラースタンに残ろうと思うんだ。守護者の魔力が弱っている以上、我々がここに残って一緒に戦ってやらないと…。せめて繁殖期の間は」

「そうですね、いつ襲ってくるかわからないですし…。力になれなくてすみません」


 アンリの言葉に座長は首を横に振る。


「アンリとシャロンに会えて、いい劇が出来た。本当にありがとう。…もし、何か困ったことが会ったら竜族を頼るといい。私の知り合いがいるんだが、そこで私の事は話さないで欲しい」

「なんでですか?」

「話せないが、絶対に私の事は話さないでくれ!」


 シャロンの質問に答えず、座長は念を押すとみんなの元へと戻る。

 最後にシエラが出てくる。


「じゃあ、気を付けてな。お前らの旅の安全祈ってるよ」

「ありがとう、シエラ。お前に会えてよかった」

「俺もだよ。旅が終わったらここの仲間になるの考えとけよ」

「わかった」


 笑って頷くアンリにシエラは手を差し出す。

 アンリもそれに答え、二人は握手を交わした。


「そう言えば、目的地はディルモールだっけか?」

「そうだな、とりあえずはディルモールを目指してる」

「ディルモールな。わかった」


 シエラは手を離す。

 アンリとシャロンはドラゴンキング演劇団の皆に別れを告げると歩き出す。


 街の出口まで行くとそこには、守護者であるレルムとりリアがいた。


「今日旅立つらしいな」

「挨拶くらい来てくださってもいいんじゃないですの?」


 シャロンとアンリは顔を見合わせる。


「いや、あの…。挨拶しにくくって」


 アンリは申し訳なさそうな顔をする。

 多分、守護者である二人はこの騒動が魔族の仕業だと気づいてるはずだ。


 きっと、もう来るなと言われるだろうな。

 でも、それは仕方ない事だと思う。

 自分のせいで街が壊滅状態にされてしまったのだ。


 アンリは覚悟を決めて、口を開いた。


「すみません。全部俺の「また来い。それまでには、街を復興させとくから」


 レルムの言葉に二人は目を見開く。


「な、何で…。この騒動は魔族のせいだって知ってるんですよね?」

「はい、知ってますわ。それが何か?」


 キョトンとするりリア。


「魔族は私たちを狙ってこの街を襲ったんですよ!?」


 シャロンの言葉にレルムは頷いた。


「私たちも魔族の女に会って話したから知ってる。だからなんだ?…まぁ、遅かれ早かれいずれはこうなっていたんだ。お前たちのせいじゃない」

「そうですわ。魔力が弱まっていた私たちの責任ですわ。そうお気になさらず。それよりも街を救ってくれてありがとうございます。貴方たちは本当に英雄ですわ」

「英雄なんてそんな…」


 力なく言うアンリの背をレルムがバシンと叩いた。


「もっと自分達のしたことに自信を持て!そんな辛気くさい顔して。…でも、まぁ、そうだな。申し訳ないと思っているなら、一つ頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと?」

「はい、これを隣村で守護者をしているルイーゼに渡して欲しいのですわ。ここから一日で行けます」


 りリアはそう言ってアンリに手紙を渡した。


「じゃあ、これでチャラってことで。ほら、もう行け」

「また来てくださいね」


 アンリとシャロンは再び顔を見合わせると、深く頭を下げた。


「ありがとうございます」

「また来ますね!」


 アンリとシャロンは守護者、二人に見送られ歩き出した。

 

 リラースタンから少し離れたところでシャロンはため息をついた。

 大切にしまっていた小瓶がいつのまにか無くなってしまったのだ。


「ギリギリまで探したなになぁ…。どこに行っちゃったんだろ…」


 シャロンはもう一度、ため息をつく。


「あ、そうだ。シャロン」

「何?」


 先を歩いていたアンリは立ち止まり、ポケットからあるものを取り出すとシャロンに向かって投げた。


「え?うわっ!と…。あ!これ!」

「俺のテントに転がってたから」


 シャロンの手に握られているのは、無くしたと思っていた小瓶。

 中は、アンリがシャロンにくれた身代わりのお守りの破片が入っていた。


「落とさないように、革紐で繋いでペンダントにしといたぞ」


 アンリはそれだけ言うと、再び歩き出す。

 シャロンはというと、顔を真っ赤にしていた。


「べ、別に、アンリから貰って嬉しかったとかそういうんじゃないんだからね!ただ、捨てるのが勿体ないからって…聞いてる!?ちょっと、アンリ!」


 怒鳴りながら、小瓶を首から下げるとちょっとだけ嬉しそうに笑う。

 それからシャロンはアンリを追いかけて走り出した。

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