馬鹿
「…シャロン?」
いつまでも、こっちを見て立ち尽くしているシャロンにアンリは声を掛けた。
シャロンは我に返ると頷き、アンリの元へと向かう。
アンリの顔色は良くもう心配は無さそうだと改めて実感すると足の力が抜け、ドカッと椅子に座り込む。
「大丈夫か?」
「うん、なんか力が抜けて…」
アンリは苦笑するとふと、真顔になる。
「シエラから聞いた。メイヤーと一緒に助けてくれたんだってな。本当に助かったよ、ありがとう」
「…」
「でも、凄いよな。譲与魔法を使えるなんて知らなかった。師匠に話を聞いたことある位だけど、あれって難しいんだろ?」
「…」
ずっと黙り込んでいるシャロンをアンリが心配そうに顔を覗きこむ。
「…シャロン?」
「…カ」
「え?」
シャロンの声が小さすぎて、アンリは首をかしげた。
「ごめん、聞こえなかった。今なん「この大馬鹿!!」
突然怒鳴るシャロンにアンリが戸惑ってあたふたする。
「な、何で怒って…」
「怒るに決まってるでしょう!身代わりのお守りなんか渡して、私の変わりに死にかけたのよ!?わかってる!?」
何もわかってないアンリの顔を見て段々、腹がたってくる。
「どれだけ心配したと思ってるのよ!!」
叫んでいるうちに涙が頬を伝う。
「シャロン…」
アンリはシャロンの涙を拭おうと、手を伸ばすがその前にシャロンの手に掴まれた。
そのままシャロンはアンリの手を両手で包むと、額に押し当て俯く。
「もっと自分の命を大切にしなさいよ…!失うかと思った…」
震えるシャロンの背中をアンリは空いた方の手でそっと撫でる。
「ごめん、シャロン。…ありがとう」
予想していなかった言葉にシャロンは顔を上げると、アンリが泣きそうな顔で笑っていた。
「何でお礼なんか言ってんのよ!怒ってるのわかってる!?」
「わかってるよ。でもそんなこと、初めて言われたから」
シャロンは涙を拭うと、アンリの額にデコピンをした。
「当たり前でしょ?わ、私たちは…」
シャロンは少し顔を赤くして少し黙ってから、口を開いた。
「仲間なんだから」
アンリは目を見開いた後、頷いた。
「ああ、そうだな」
「だから、もう二度とこんなことしないで。こんな風に助けてもらっても嬉しくないよ。…でも、ありがとう。アンリのお陰で私はここにこうしていられる」
シャロンはそう言うと勢いよく立ち上がる。
「じ、じゃあ、私用事があるから!行くね!!」
「え!?あ、ちょっと…」
アンリの制止を振り切ってシャロンはテントを飛び出して行った。
「全く…」
アンリは苦笑してため息をつくと、床に転がる小瓶を見つけた。
シャロンが落としたのだろうか。
アンリはベッドから降りるとその小瓶を拾い上げた。
「これって…」
それを見てアンリは思わず微笑んだ。