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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第三章
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目覚め

 額に冷たいものが押し当てられた。

 それでゆっくりと意識が戻っていく。

 遠くの方で誰かの話し声が聞こえてくる。


「…は起きたか?」

「まだ。…んだけど、ちょっと…てくるから、お願い…かしら?」

「…ぜ。行ってこいよ」

「ありがとう」


 誰かが出て行く気配を感じた。

 そこでようやく、意識と身体が合わさりアンリはゆっくりと目を開いた。

 最初に目に映ったのは、ぼやけた布製の天井。

 もう一度、よく見ようと目を閉じて開くと今度は燃えるような赤い髪を持つ男の顔が現れた。


「アンリ!目を覚ましたか!!俺が誰だかわかるか?」

「シ…エラ…」


 掠れた声でアンリは答える。

 シエラはホッとしたようにため息をつく。


「よかった…。全く、心配させんなよな」

「悪い。…ところでここはどこだ?」

「テントだ。…気分は?」

「大丈夫、悪くない」


 アンリは目を閉じて、何があったのか思い出す。


 何故、自分はテントに寝かされているのか…?

 確か、シャロンがワイバーンに襲われて…。


「シャロンは!?」


 慌てて飛び起きて叫ぶアンリにシエラは苦笑して宥めると、布団の上に落ちた濡れタオルを拾う。


「落ち着けって。大丈夫、アンリのお陰でシャロンに怪我一つ無い」

「そうか…。よかった」

「無理しすぎだって。お前、結構危なかったんだからな?シャロンとメイヤーに感謝しろよ」


 シエラの言葉にアンリは首をかしげた。


「シャロンとメイヤーに?」


 シエラはため息をつくと、アンリが眠っている間に何があったのか説明してやった。

 

 シャロンとメイヤーが協力して瀕死になったアンリを治療したこと。

 アンリが一日半も眠り続けていたこと。

 その間、ずっとシャロンが看病していたこと。


「そっか…。迷惑かけたみたいだな」

「こういうときはお互い様だから気にすんなって。それに今じゃアンリは街の英雄なんだぜ?」


 アンリはぎょっとした顔をする。


「は?へ?英雄!?何で!?」

「当たり前だろう?街を襲った元凶のワイバーンを殺ったんだから。それのお陰で他のワイバーンはみんな逃げ出し」

「い、いや、あれは俺だけじゃなくてシャロンと一緒に倒したわけで…」

「んな、照れるなよ!英雄!!」


 戸惑うアンリにシエラは大声をあげて笑い出す。


「ちょっと、シエラ。アンリがまだ寝てるんだから静かにしてよね」


 その時水の入った桶を抱えて、シャロンがテントの中に入ってきた。


「おう、お帰りシャロン」


 シエラが軽く挨拶をする。

 自分の注意を聞いてるのか聞いてないのかわからないシエラに文句を言ってやろうと、入り口を閉めて振り返るとシャロンの持っていた桶が手から滑り落ちた。

 シャロンはそんなことは気にせず、ベッドを凝視する。

 ベッドから起き上がりこっちをアンリが笑いながら見ている。


「あ、アンリ…。目が覚めたの…?」


 その場に立ち尽くすシャロンの元にシエラが来ると、床に転がる桶を拾い上げた。


「あーぁ。せっかく汲んできたのに…。俺が汲んでくるから、シャロンはアンリを頼む」


 シエラはシャロンの肩をポンっと叩くと外へと出る。

 外へ出ると、こちらへ向かってきたメイヤーと出くわした。


「シエラ、アンリは目を覚ましましたか?」

「ああ、今ちょうどな。でも、今はシャロンと二人っきりにしてやりたいんだ。…悪いんだが…」


 シエラは言いにくそうに頭をボリボリ掻く。

 そんなシエラにメイヤーは肩をすくめた。


「わかってます。私だってそんな野暮なことはしません。…今回はシャロンに譲ります」

「メイヤー…」

「勘違いしないでくださいね?諦めた訳じゃないんですから。いつか、振り向いてくださるように頑張るんですから」


 メイヤーはそう言って、アンリのいるテントを見てため息をついた。

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