断章
ある小さな村、そこは今まさに地獄と化していた。
村に立ち込めるのは血の臭い。
転がる無数の村人の遺体。
そして、村のいたるところにあるオブジェの様な氷柱。
その先端には人間が突き刺さっていた。
そんな村の中心に静かに立ち尽くすのは、エドウィン。
その姿はまるで死神の様。
鎌を持ち、空を見上げるとエドウィンは目を閉じて胸一杯に血の臭いを吸い込む。
この鉄の臭いが、自分を惑わし狂わせる。
こんな自分の姿を彼はきっと良く思わないだろう。
自己嫌悪に目を開く。
「な、なんで…こんな酷いことが出来るの…!?」
掠れた声で叫ぶ女の声に、エドウィンはめんどくさそうに声の主の方を見た。
そこには、身体中から血を流し公認魔法使いの証であるローブを身に纏った魔女が座り込んでいる。
「まだ、生きていたか…。しぶといな」
「…守らなければならない村人全員を…殺されてしまったのに、なにもしないで死ねるわけないじゃない!!」
震える足で立ち上がり血を吐きながら叫ぶ魔女に、エドウィンは鼻で笑う。
「無様だな。己の力の無さを呪いながら死んでいけ」
エドウィンは魔女の前に来ると、鎌を振るう。
立つのもやっとだった魔女に避ける術はなく、身体を斬り裂けられその場に崩れ倒れた。
そして、二度と動く事はなかった。
エドウィンは魔女の胸に己の手を差し込むと心臓を引き抜いた。
「あーあ、やりすぎじゃない?村一個壊滅させちゃうとか、どんだけ欲求が溜まってたの?」
クスクス背後で笑う、耳障りな声。
「リズか」
「そう!相棒を置いていくなんて、酷くない?私、一生懸命探したんだからぁ」
「黙れ、誰が相棒だ。虫酸が走る」
「うわ…酷い言われよう…」
落ち込んで見せるが、エドウィンは全くリズを見ずに歩き出した。
「あ、待ってってばー。さっきね、近くの街で面白い混血がいてねちょっとからかってきたんだけど」
「興味ない」
「またまたー。本当に面白いんだから。でね」
エドウィンはため息をつくとルフを呼び出す。
「悪いが、これをあいつの元へ運んで欲しい」
エドウィンはルフに心臓を差し出した。
ルフは心臓をくわえると、エドウィンの後ろにいるリズを気に入らなそうな顔で見つめる。
「あれのことは気にしなくていい。さぁ、行け」
ルフは一鳴きすると空へと舞い上がり飛んでいく。
「いいなぁー、ルフ。私も欲しいな。操っちゃおうかな?」
「殺すぞ?」
エドウィンは殺気に満ちた目で睨むと、再び歩き出した。
「やだー。怖ーい」
リズは心底楽しそうに言うとエドウィンの後を追いかけた。