記憶の中の少女。
「チョコレートケーキ…!楽しみですね!!師匠、早く終わらせてケーキを食べましょう!!!」
アンリの言葉にアンネは苦笑した。
「ケーキを届けてくれるのは夜ですよ、アンリ」
しかし、アンリは全く話を聞いてな昔の思い出に思いを馳せた。
十年前の今日、アンリは十六年間生きてきた中で一度だけ脱獄した。
アンリに夕飯を運んできた村人が牢の鍵をかけ忘れ、それに気付いたアンリは必死の思いで逃げ出しのだ。
夜ということもあって、村人に見つかることもなく村の外れまで逃げられたがそこでアンネに捕まり、彼女の家まで連行された。
その時、一人の少女がアンネの家に訪ねてきたのだ。
アンネは慌ててアンリに外套を着せてフードで顔を隠させてから、少女を家の中へ招き入れるとお茶を出すために二人を残しキッチンへと消え去った。
そのあと直ぐに、アンリに興味を示した少女がいろいろ話をかけてきたが、アンネに少女と喋らないようにと念を押されていたので全て無視していた。
すると、少女は緊張しているのかと勘違いしてアンネに持ってきたケーキをくれたのだ。
少女の手作りだと言うチョコレートケーキは本当に美味しく、今まで食べたものの中で一番の美味しさだった。
そんな彼女が、六年前からアンネに弟子入りしたと聞いて毎年、アンリのためにアンネに頼んでケーキを届けてもらっていた。
そして、今年は初めて食べたチョコレートケーキを作ってくれたと言う。
これはもう、楽しみでしょうがない。
「頑張りましょう!師匠!!!」
「はいはい、では始めましょうか」
アンネは木の枝を拾うと、魔方陣を書き始める。
アンリもその作業をジッと見つめる。
ある程度の種類の魔方陣は出来るようになったが召喚魔法はまだ、習得していない。
この機会にアンネの技を盗まなくてはと、手順を頭に叩き込む。
アンリの考えに気づいてるのか、アンネもゆっくり丁寧に魔方陣を書き上げていく。
「さあ、出来ました。やりましょう」
「よろしくお願いします」
『さあ、出てらっしゃい…楓、鬼灯』
アンネの言葉に呼応するように魔方陣が光輝き、脈打つ。
すると、魔方陣から大きな鴉と九つの尾を持つ狐が出てきた。
鴉が楓で、狐が鬼灯。
どちらもアンネに忠誠を誓う魔物だ。
「さて、アンリ。死ぬ気で戦いなさい。この子達は一切容赦はしませんよ」
「わかってます!」
アンリはそう言って氷月華を抜刀すると、身構えた。
「では、行きなさい!」
アンネの命令で二匹の魔物が襲いかかってくるとアンリも怯むことなく、飛びかかっていった。