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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第三章
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希望

「アンリ!」


 シャロンはうつ伏せに倒れてるアンリを抱き寄せ、仰向けにすると言葉を失う。

 服に損傷は無いが、血がどんどん滲み出てくる。

 傷を確認しようとアンリの服をたくしあげると、シャロンがさっきワイバーンに刺された場所と同じところが何かに貫かれたような傷があった。


「あのお守りって身代わりの魔法がかかってたの…?何でそんなことを!」


 シャロンは衣装のスカートを引きちぎると、傷口に止血しようと押し当てた。

 だが、血は止まる気配がない。


「どうしよう…!」


 このままじゃ、アンリが死んじゃう!


 その時、メイヤーが駆け寄ってきたのを見てハッとした。


「メイヤーの主魔法は回復だよね!?お願い!アンリを助けて!!私にはアンリを救うことが出来ないの!お願いだから…アンリを助けて…!」


 シャロンの言葉にメイヤーは泣きながら首を横に振る。


「で、出来ません…!」

「どうして!?このままじゃアンリ、死んじゃうんだよ!!」

「もう、アンリの怪我を治せるような魔力が残ってないんです!!」

「う、そ…」

「シャロン達と合流するまでに何人か治療してしまって、もうかすり傷を治せる程度の魔力しかないんです…」


 メイヤーの言葉にシャロンの心にジワジワと絶望が広がって行く。


「そんな…。じゃあ、アンリは死んじゃうの…?」

「…っ」


 メイヤーは何も答えずにその場に泣き崩れる。

 その間にも、アンリの呼吸はどんどん浅くなっていく。

 このまま放置していれば、確実に死ぬだろう。


「こんなところで、死なないでよ!アンリ!!やっとアンリの事を理解しようって決めたばかりなんだよっ!私の覚悟を無駄にする気!?」


 シャロンが泣きながら叫んでもアンリは何も答えない。


 どうしよう…!どうしよう、どうしようどうしよう!!

 何か方法は無いの?


 シャロンはアンリの傷を止血しながら、必死に考える。


『いいですか、シャロン。魔力は他の誰かに分けて上げることが出来るんですよ』


 不意に昔、師匠であるアンネが言っていた言葉を思い出す。


『統合魔法は他の誰かと自分の魔力を混ぜ合わせて使う魔法です。譲与魔法は魔力を他人に分ける魔法です。統合魔法よりは使いどころはあまりの無いと思いますけどね』


 シャロンは目を見開く。


「…だ」

「え?」


 あまりにも小さい声に、メイヤーは聞き返す。


「譲与魔法だよ!メイヤー!!」

「譲与、魔法…?」


 シャロンは腕で涙をぬぐうと、立ち上がる。


「私の魔力をメイヤーにあげるわ!だからメイヤーはそれで回復魔法を使って!!」


 シャロンの言葉にメイヤーは驚く。


「で、でも、一体どうやって…」

「わからない。師匠に譲与魔法の事を聞いたことあるけど、やり方はわからない。でも、これしかないわ」

「やり方がわからないのに、やるつもりですか!?正気だとは思えません!」

「でも、これをやらないとアンリは死んじゃう。何もやらないで後悔なんかしたくない!…お願い協力して」


 シャロンの真剣な顔にメイヤーは戸惑い、青ざめたアンリの顔を見る。


 アンリを失いたくないのは、自分だって一緒だ。

 譲与魔法が上手く出来なかったら、行き所を失った魔力が暴走してしまうかもしれない。

 そうなったら、自分達もただじゃ済まないだろう。

 でも…。


「わかりました。やりましょう!アンリの命を見捨てることなんて出来ませんからね」

「ありがとう、メイヤー」


 二人は覚悟を決めて微笑むと直ぐに取りかかる。


 アンリの傷口の上にメイヤーが手をかざし、その上にシャロンが両手を重ねた。


 二人は頷き合うと目を閉じた。

 シャロンは自分の中に流れる魔力を感じとると、その魔力を全て手の方へと送り込む。

 そして、手の平からメイヤーの手に魔力を流し込むイメージで魔力を送る。


 それを受け取ったメイヤーは内心、驚く。

 シャロンの魔力はすごく熱くて力が強い。

 気を抜いたらシャロンの魔力が暴走してしまいそうだ。

 それを必死に自分の残りわずかな魔力で繋ぎ止め、自分の身体と馴染ませる。

 そして、メイヤーは自分の主魔法を発動させた。

 手から放たれた回復魔法は、優しい光でアンリの傷口を覆い尽くす。


 二人は祈るような気持ちで魔法を使い続けた。

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