魔族
その時、一羽の鴉がリズの肩に止まった。
「あら?夜。見つかった?」
リズの質問に夜は一鳴きして頷いた。
それに満足して笑顔を浮かべると、アンリからクレイモアを離して鞘に戻す。
「お疲れさま。じゃあ、案内して?また、どっかに行かれても困っちゃうし」
指をぱちんと鳴らすと二匹のワイバーンが現れる。
リズは二匹のうちの大きい方の頭を撫でた。
「じゃあ、ここは任せたわね。…めちゃくちゃに破壊しちゃって」
リズはそう言ってもう一匹の方の背中に乗る。
「貴方は私を送っていってね?」
リズの一言にワイバーンは鳴き声をあげた。
「じやあね?アンリ」
「待てよっ!」
「待たないわよ。生きていられたらまた会いましょう?」
アンリが立ち上がり攻撃をしようとしたが既にワイバーンは飛び上がってしまった。
魔法で攻撃しようとしたが、それを阻止するようにもう片方のワイバーンがアンリを威嚇する。
アンリは舌打ちをうち、リズの乗ったワイバーンを苦々しい顔で見送った。
アンリのいるであろう家の屋根を心配そうに見ていたシャロンは、屋根から飛び上がったワイバーンを見て目を見開く。
ワイバーンの背には黄色い瞳をした女性が乗っていたのだ。
魔族…!
心臓がドクンと脈拍つ。
シャロンの視線に気づいたリズはニコリと笑みを浮かべた。
シャロンは笑み一つ浮かべることなく、ユエルスを構える。
魔族のせいで人生をめちゃくちゃにされたのだ。
絶対に許さない。
ここで殺してやる…!
瞳に殺気が宿る。
「死ねっ!」
ユエルスが放った雷の矢はヒュンッと空を切り裂き、リズへと向かう。
が、別のワイバーンがリズの前に現れると自らがリズの盾となりシャロンの矢を受けて、凄まじい咆哮をあげて地面へと落下した。
リズはその光景をただ、楽しそうに見たあとリラースタンを去って行った。
「…まだ、私じゃ魔族には勝てないってことね」
シャロンはグッと唇を噛み締めた。
そして、アンリの事を思いだし上を見上げると先のとは別のワイバーンが屋根から飛び立つところだった。
そのワイバーンが空に向かって咆哮をあげると、街中のワイバーン達がそれに答えて咆哮をあげる。
ワイバーンの声に反応して空気が震える。
どんだけいるのよ…!
シャロンは背中に冷たいものが流れるのを感じた。
「シャロンっ!」
アンリがそう声をかけて屋根から飛び降りてきた。
「アンリ!大丈夫?」
「ああ、俺は平気だ。やっぱり、狙いは俺たちみたいだった。…また罪が増えたな」
アンリはそう言った後、首を横に振る。
「今はそんなこと言ってる場合じゃないな。…さっきの魔族の主魔法はきっと操りの魔法だ。この街で暴れまわってるワイバーン達の中で、リズの魔法にかかってるのはさっき屋根にいた奴だ。さっきの咆哮を聞いていればわかる。きっと奴がこの群れのリーダーなんだろうな」
「てことはあのワイバーンを仕留めれば…!」
「他のワイバーンは逃げていくかもしれない」
「なら、早く倒そう!」
「ああ。…協力してくれるか?」
アンリの言葉にシャロンは頷く。
「当たり前じゃない。ほら、行きましょう!」
「ああっ!」
二人はリーダー格のワイバーンを追いかけて再び走り出した。