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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第三章
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襲撃

 迫ってくるワイバーンの口が、シャロンを食い殺す為に大きく開かれた。

 視界いっぱいに広がる、鋭い牙と顔にかかるワイバーンの吐息。

 恐怖で目を閉じることもできない。


 アンリ…!


 胸の中でアンリの名を呼んだ刹那、ザンッと何かが突き刺さる音が周囲に響き渡った。

 シャロンは驚いて目を見開く。

 ワイバーンの首には巨大な氷の氷柱が突き刺さり絶命していた。

 氷柱は観客席の方からまるで道のように地面から突き出していて、その軌跡を辿ると一人の男が剣を降り下ろした姿で佇んでいた。


 勿論、その男はアンリ。

 アンリは顔を上げると無事なシャロンを見て安堵の表情をすると、氷月華を鞘に戻した。

 アンリの顔を見た瞬間、力が抜けその場に座り込みそうになるがワイバーンの血が床に広がっているのに気づき、何とか堪える。


「シャロン、大丈夫か!?」


 アンリが慌てて駆け寄ってきた。

 シエラもチコを抱き抱えたまま、駆けつける。


「大丈夫…。ありがとう…」


 シャロンはぐったりしながら、礼を言うとポケットからユエルスを取りだし指輪とブレスレットをつける。


「シャロンに怪我が無くてよかったぜ…。つーか、何が起こってんだ?」

「わからないけど、舞台は台無しだね…」


 シエラは頷き、ずっと震えてるチコの顔を覗く。


「チコもこの状態じゃ、今日の講演は…「大変ですっ!」


 シエラの言葉を遮り、メイヤーが凄い勢いで走ってきて叫んだ。


「どうした?メイヤー」

「ま、街に…ワイバーンが…」


 メイヤーは声を詰まらせると、深呼吸をして一気に捲し立てる。


「街に大量のワイバーンが襲ってきて、街中が大パニックになってますっ!急いで助けに行かないと!!!」


 メイヤーの言葉にシエラは頷く。


「わかった。すぐ行く。とにかくチコを安全な所に連れていってからな!」


 シエラはそう言って駆け出す。


「すみません、アンリとシャロンもよろしくお願いします!

「わかったわ!」

「もちろん」

「ありがとうございます」


 メイヤーも二人に背を向けて走り去る。

 シャロンがメイヤーの後を追いかけようとすると、アンリに手を捕まれてそれを阻止された。


「アンリ?」

「シャロンに話しておきたい事があるんだ」


 アンリの深刻な顔を見て、シャロンは嫌な予感がしたが頷いた。


「何?」

「これはたぶん、魔族の仕業だ」

「魔族!?」

「魔族の気配を感じる…。たぶん、馬車を襲った奴と同一人物だ」


 馬車を襲った…?


 アンリが何を言っているのかよくわからないまま、話は続く。


「魔族の目的がわからないが、もしかしたら狙いは俺たちなのかもしれない…。俺たちのせいでたくさんの人が死ぬのかもしれない…」


 最後の言葉は消え入りそうな声だった。

 アンリの辛そうな顔を見ることが出来なくなったシャロンはアンリの手を掴んだ。


「もし、魔族が私たちを狙っているのだとしたら、何で狙われてるかわからないけど私たちがこれを何とかしなきゃ。落ち込んでる場合じゃないわ」


 シャロンの言葉にアンリは驚いた後に笑顔になる。


「そうだな。シャロンの言う通りだな」

「でしょ?さ、行きましょ!」

「待って!後、もう一つ」

「まだあるの!?」

「これは重要だから。きっと外には人間の血の臭いが充満してると思う」


 今度は何を言っているのか直ぐにわかった。

 シャロンは一瞬、震え上がったが直ぐに笑みを作る。


「呪いなんかに負けないわ。自分を強く持てばいいんでしょ?」


 言葉で言うよりもずっと難しい事なのだとわかってる。

 でも、ここで弱音なんて吐いたら誰一人として助けることなんて出来ない。


 アンリもシャロンの気持ちがわかったのか何も言わずに頷くと、ポケットに手を入れて何かを取り出すとシャロンに差し出す。


「何?」

「お守り。持ってて」


 そう言って渡されたのは、星の形をしたチャームがついたペンダント。


「お守りって…このタイミングで渡す!?」

「このタイミング以外でどう渡すんだよ?絶対、持ってろよ!」


 アンリは舞台から飛び降りると、シャロンの返事を待たずに外へと向かう。

 その背中を見送りながら、シャロンはため息をついた。


「まあ、そりゃあ、このタイミングは間違いじゃないだろうけどさ…」


 男の子から何かを貰うのは初めてだから、もっと雰囲気がある場所でペンダントとかは貰いたい。

 まあ、無理な話なのだろうけど。


 シャロンはペンダントを手の中で転がすと、ポケットに突っ込み、アンリの後を追って外へと向かう。



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