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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第三章
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出番

 シャロンは緊張した面持ちで、舞台の幕がカーテンの隙間からシエラ達の演技を見ていた。

 もうすぐ、自分の番が来る。

 今までも出番はあったが、台詞は一切なかった。

 次に来る出番は一番喋らなくてはならない。


 お、落ち着け…!

 大丈夫、練習した通りにやれば平気よ。

 

 ふぅ、と深呼吸をして己の頬を叩く。


「さぁ、やるわよ」

「シャロンなら大丈夫よ」


 背後からチコに声をかけられ、シャロンは振り返りぎこちなく笑みを作る。


「うん、ありがとう」

「笑顔がひきつってるわよ。…あ、そうだ。衣装担当がね、その指輪とブレスレットはやっぱり外してって言ってたわよ」


 チコの言葉にシャロンは首をかしげる。


「え?何で?」

「使用人が自分の主より着飾るのはやっぱりダメだって」

「ああ、そうか。…確かに言われてみればそうね」


 シャロンは頷いてユエルスを外すと、衣装のポケットにしまう。

 その時、出番が終わったシエラが舞台から戻ってくるとチコとハイタッチをする。


「さあ、行くわよ!シャロン」


 力強くチコはそう言って舞台へと上がる。


「頑張れよ」


 シエラの激励にシャロンは頷くと、もう一度深呼吸をした。

 そして、シャロンも舞台へと上がった。




「出てきましたね」


 メイヤーの言葉にアンリはうなずいた。

 シャロンがかなり緊張しているのは、見ていればわかる。

 つい自分の事のように緊張してしまう。


【私はやっぱり反対です。魔族と竜族に宝玉の管理を任せるなんて…!魔族はきっと巨大な力が欲しいだけでしょうし、竜族なんてただ宝玉に魅せられただけです!やはり宝玉を三分割などせずに我々が管理するべきです!】

【お前の気持ちはわかります。…しかし、私は信じてみたいのです。世界を守りたいと言う魔族と竜族を。…同じ世界に住んでいるんですもの。きっとわかり合えるはずです】


 シャロンとチコの掛け合いは、見事で何度も練習したが伺える。

 シャロンが噛まずに、最初の台詞を言えたことにアンリは安堵のため息をついた。


「お前が緊張してどうするんだよ、アンリ」


 トトが呆れ気味に言うとアンリは苦笑した。


「そうなんだけど、つい…」

「アンリは優しいですからね」


 メイヤーはそう言って、テーブルに並べたカードから女神が歌っている絵のカードを手に取ると呪文を唱える。

 すると、会場に美しい音色が響き劇をより一層盛り上げる。

 アンリはため息をつき、舞台へと再び視線を向ける。


「頑張れ…」


 聞こえないだろうが、アンリはシャロンにエールを送る。

 

 刹那、アンリの背中にゾクリと悪寒が走った。


 嫌な魔力を感じる。

 この感じはあの時の…!


 それで思い出す。

 ここに来る途中にワイバーンに襲われたときに感じた魔力の事を。

 あの時は微弱過ぎてわからなかったが、今ならはっきりとわかる。


「魔族か…っ!」


 ギりっと奥歯を噛み締め、外に出ようと舞台に背を向けたその時、会場にビリっという嫌な音が鳴り響いた。

 ハッとして、上を見上げればテントが裂けてその隙間からワイバーンがこちらを見て咆哮をあげた。


「嘘だろ!?」


 トトが椅子から立ち上がり叫ぶ。

 メイヤーも顔を真っ青にさせた。


「ここは、守護者の二人が結界を張っているのに何故…!?」

「とにかく、あれを何とかしないと…!」


 アンリが舌打ちをして、氷月華に手を伸ばしかけたその時、舞台から凄まじい悲鳴が上がった。

 舞台の方を見るとチコがワイバーンに気づき、その場にうずくまり絶叫していた。

 ワイバーンはそんなチコを見て狙いを定めると、テントの中へと入ってきた。


「シャロン!チコ!…くそ!」

「待ってください!アンリ!!!」


 メイヤーの制止を無視して、アンリはワイバーンの存在に気付き逃げ惑う観客達の中に飛び込んで行った。




 シャロンは悲鳴をあげるチコに駆け寄る。


「チコ、大丈夫!?」

「ひっ…!嫌だ!いやぁぁあぁあぁぁっ!」

「チコ!!!」


 正気を取り戻そうと、チコの肩を揺するが全く意味がない。

 そんなとき、シエラが二人の元へ駆け寄ってきた。


「大丈夫か!?」

「私は平気だけど…チコが!!!」

「わかってる!」


 シエラはチコを抱き抱えた。


「とにかく逃げるぞ…って、マジかよ…!?」


 シエラがシャロンの後ろを見て青ざめる。

 シャロンも振り替えると、ワイバーンがこちらに向かっているところだった。

 シャロンは弓を構える体制をして、ユエルスをブレスレットから弓に変えた。


 つもりだったのに、何も起こらない。


「な、何で!?」


 そして、直ぐに気づく。

 今はユエルスを外していることを。

 直ぐに嵌めようと思っても、もう間に合わない。


 どうしよう…!


 シャロンの頭は真っ白になり、ただ立ち尽くして

ワイバーンを見つめた。


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