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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第三章
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前夜


 夕飯が終わり団員達が自分達のテントへ戻る中、アンリは一人で広場の端に停車している馬車の前まで来ると屋根の上に飛び乗った。

 ゴロンと寝転ぶと、星を見上げてため息をついた。


 今日、レルムとリリアに聞いたことを思い出すと気分が暗くなる。

 魔族は一体何のために魔力を集めているのか?

 まだ、魔族が関与していると気づかれてないから、良いが気づかれてしまえば半分魔族の血を引く者を人々は迫害し始めるだろう。


「これからどうなるんだ…」

「暗い顔してどうした?アンリ」


 突然、視界いっぱいに現れたシエラの顔に驚きアンリは飛び起きた。

 その際、お互いの頭がぶつかり二人は悶絶する。


「うおぉぉぉ…っ!マジいてーよ!」


 悪態をつくシエラにアンリは目に涙を溜めて睨む。


「シエラが悪いんだろ…!もっと気配を出せよっ」

「普通に近寄って来たって!気づかないくらい深刻な顔してたお前が悪い」

「全く…」


 アンリはため息をついた。


「俺に何か用があるんだろ?」

「ご名答!…明日にはリラースタンから出て行くんだってな。座長から聞いた。もう少し居たっていいんだぜ?」

「本当はそうしたいんだけど、俺たちの旅は先を急がなきゃいけないならな…」

「そっか、残念だな。折角仲良くなれたのにな」

「旅していれば、またいつか会えるさ」


 アンリは励ますように言う。


「だな。…で、目的の街とかあるのか?」

「とりあえず、ディルモールに行こうと思ってるんだ」

「ディルモールか。時計塔がある街だな」


 シエラは頷いた後、ふと真顔になる。


「なあ、アンリ。この前の話覚えてるか?」


 シエラの突然の言葉にアンリは首をかしげた。


「この前の話…?」

「お前よりも俺の方が罪が大きいって話。」

「あ…」


 アンリは思い出して頷く。


「後で話すって約束したろ?だから、お前が旅立つ前に話しとこうって思ってさ。お前の過去の話を聞いたしな」



 シエラはそう言った後、ため息をついた。


「…俺は、五年前に母親と妹を殺したんだ」


 アンリは目を見開いた。


「殺したんだ、俺が」


 唖然とする、アンリにシエラは苦笑した。


「だから、言ったろ?俺の方が罪は大きいって」

「…どうして?」


 どうして殺した?


 その一言が言えなくてアンリは黙りこむ。

 アンリの言いたいことを察して、シエラは口を開いた。


「俺は、ある商業都市に生まれたんだ。その街はさ貧富の差が酷くてな。当然俺は貧困街育ち。…ガキの頃は腕っぷしが強くて、仲間を守るんだって意気がってた。で、ある日俺の友達が貴族の子供に殴られたって聞いて仕返しに行ったんだ」


 シエラはその時の事を思い出したのか、失笑した。


「バカだよな。貴族の子供をボコボコにしてただで済むわけ無いのに。…何日かたつと、変な奴等がきて俺の家を取り壊しやがった。俺の親父は大分前に死んで、家には病弱な母親と幼い妹がいるのに。家を無くしても誰も助けてくれなくて結局、その日のうちに街を出たよ」

「それで…どうなったんだ?」

「眠りの月だったからな。寒いのに野宿だったから、何日もしないうちに母親も妹も死んじまった。…俺が殺したようなもんなんだ。なにも考えずに喧嘩なんかするから」


 シエラはゴロンと屋根上に寝転び星を見上げる。


「その後直ぐに座長に拾われてこの生活をしてるんだ。…ずっとどうしたら罪を償えるのか考えてたが、全然思い浮かばないから、母さんと妹の分までとにかく一生懸命生きることにした。いつか、思い付くその日まで」

「シエラも辛い思いをしたんだな」

「お前に比べれば全然だけどな。…俺の方が過ちを犯してんだ。アンリはあんまり親父の罪を気にすることないさ」


 アンリは頷くとシエラの隣に寝転ぶ。


「…ありがとう。どんな過去があっても俺はシエラのこと好きだ」


 シエラは驚いて目を見開いた後、照れ臭そうに笑った。


「ありがとうな。アンリ」







 シャロンは水を汲むため、共同井戸に来ていた。


「シャロン」


 不意に後ろから声をかけられ、振り返るとメイヤーがいた。


「メイヤー…。どうしたの?」

「ちょっと聞きたいことがありまして。…アンリのことで」


 その言葉で、今日の昼間のアンリとメイヤーの会話を思い出した。


「何?」

「はい、あの…アンリって恋愛感情とかって知らないのでしょうか?」

「へ?恋愛感情!?」


 シャロンの言葉にメイヤーが、カァァァっと顔を赤くした。


「は、はい」

「わからないけど…。でも、そうね。知らないのかも。私の村では嫌われたし、恋愛とかそんなのしてる場合じゃなかったろうから」

「そうですか。…なら、なおさら頑張らないといけませんね」


 メイヤーは決意を込めたように言う。


「…メイヤーは、アンリが好きなの?」

「はい。…アンリって優しいですし、頼りになりますし。最初はシャロンはアンリの恋人だと思っていたのですが、違うんですか?」


 メイヤーの言葉にぎょっとして首を横に振る。


「まさか!」

「じゃあ、恋愛対象として好きですか?」

「好きじゃないわよ」


 ていうか、つい最近まで大嫌いだったのに恋愛対象になるわけがない。

 そう、なるわけがない。

 なのに、何でこんなに胸がざわつくんだろう…?


 そんなシャロンの心中なんて知らないメイヤーがパアッと顔を輝かせる。


「よかったです!シャロンがライバルだったら諦めるしかないと思っていたのですが、希望が見えてきました!…じゃあ、明日早いので私はこれで!お休みなさい」


 メイヤーは颯爽とテントの方へと戻っていってしまった。

 一人残されたシャロンは苛ただしそうにため息をついた。


「そうよ、好きになるはずない。だって今までアンリのこと嫌いだったんだもの」


 そう言ってシャロンは自分の胸をギュっと掴む。


 なのにどうしてこんなに苦しいのだろう?


 答えがわからないまま、シャロンも水を汲んだバケツを片手にキナの待つテントの方へと歩き出した。

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