今は
「とにかく、今はワイバーンの動向を見張るしかない。王都にある魔法使い協会に応援を頼んだが、あてにならなそうだしな」
レルムは肩を竦めて言った。
「王都でも多くの者が、魔力が衰えてしまって応援をよこす所ではありませんからね。国家公認魔法使いの試験を実地出来る状況じゃ無いそうですし。どこも大混乱ですわね」
「そう、ですか…」
アンリは少し驚いた後、残念そうな顔をした。
その顔を見て、シャロンは思い出す。
確か、アンリは本当なら今年の国家公認魔法使いの試験を受ける予定だったはずだ。
呪いを受けても受けていなくても、試験は受けられなかったってことか。
シャロンはアンリを励まそうと声をかけようとしたが、レルムに寄ってその声は遮られてしまった。
「そういえば、お前たちは守護者に魔法を教わったって言ってたけど誰に教わってたんだ?」
「あ、それ、私も気になっていたんですの!守護者は試験に受かると三年間、学校に通う決まりになっていますからもしかしたら知っている人かも知れないですわ」
さっきまでの暗い空気が僅かに薄れ、シャロンは安堵すると口を開く。
「私たちの師匠はアンネ・リコールという方です」
その名前を聞いて、レルムとリリアは目を見開く。
「「アンネ・リコール!」」
二人の声が綺麗に重なる。
シャロンは驚いてアンリを見ると、アンリも困ったように肩を竦めた。
そんな二人に気づいて、レルムが咳払いをする。
「すまんな。予想外の名前が出てきたものだからつい、驚いてしまった。そうか、アンネ先輩か…」
「師匠を知っているんですか?」
アンリの言葉にリリアが頷く。
「ええ。私たちの二期上の先輩で最優秀生として有名でしたわ。…アンネ先輩は王都の守護者になるものだと思っていましたが、魔獣や魔物が多く生息する地方に着任するのを希望なさっていましたわね」
「王都も優秀な奴じゃないと着任出来ないが、そういう場所に行くのも優秀な奴じゃないと任せてもらえない。しかも一人となるとな…」
「そうですわ。だから、私たちは二人でリラースタンを任されたのですから」
アンリとシャロンは自分の師匠の意外な話を聞いて唖然としていた。
自分達の師匠は意外と凄い人だったとわかってちょっとだけ、誇らしくなった。
「アンネ先輩も魔力が弱くなってしまったとはな…。まあ、そのうちなんとかなるだろう。私たちは今目の前のことに集中しないとな」
「ええ。リラースタンにワイバーンを入れないためにも全力を尽くさなくてはなりませんわね。ですから、お二人は心配なさらないでくださいね」
レルムとリリアの言葉に二人は少しだけ不安そうに頷いた。
それからしばらく話した後、アンリ達は守護者達に別れを告げると帰路につく。
「ねえ、アンリ。この街は大丈夫と思う?」
シャロンの言葉にアンリは首をかしげた。
「どうだろうな。少し心配だけど、二人を信じるしか無いだろうな。それに守護者じゃなくても魔法を使える人はいるだろうし」
「そうだよね。…もし、ワイバーンに襲われてここが戦場になっちゃったら私、自分を保てるかな?」
アンリはため息をついて、シャロンの頬を引っ張る。
「いひゃい!何するのほ!」
「弱気になるな。前にも言っただろ?自分に負けるなって」
アンリはそう言ってシャロンの頬から手を話した。
「大丈夫だ。シャロンが魔族になりそうなときは俺が全力で防ぐよ」
そう言って笑うアンリの顔が少し眩しく見えた。
シャロンは頷くと、アンリに聞こえないくらい小さな声で囁いた。
「うん、信じてる…」