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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第三章
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意味

 次の日、リラースタンの広場に金属を叩く音が鳴り響いていた。


「アンリ!ロープをもう少し引っ張ってくれ」

「…っ!これくらい?」

「おー、いい感じ!そのままな!」


 シエラはそう言ってアンリが引っ張っている紐に杭を打つ。

 アンリ達は今、明日の講演の為の巨大なテントを張っている真っ最中だ。


「シエラ…!早くして!」


 顔を真っ赤にして叫ぶアンリに、シエラは意地悪そうな笑みを浮かべる。


「んー、後もう少しかなー」

「真面目にぶっ飛ばす…っ!」

「怒んなって。放していいぞ」


 やっと手を放せることに、安堵してアンリはロープを放した。


「疲れた…」

「お疲れさま。もう大体完成したし、いいだろう」


 シエラは満足そうに皆で建てたテントを眺める。


「よし、このあとは街を案内するぜ?昨日約束したしな」

「本当に!?」

「ああ、俺団長に許可とってくるわ。後、シャロンとチコも誘うか。…シャロン、チコの熱血教育に参ってたしな」


 シエラの言葉にアンリは苦笑する。

 昨日、急遽代役が決まるとシャロンはすぐにチコに拉致されて徹夜で台本を読まされていた。

 朝会ったときにチコがブツブツと“何回やれば棒読みじゃなくなるのかしら”とか言っていたのを思い出す。


「二人ともいい気分転換になるな」

「だろ?じゃあ、十五分後にまた会おう」


 シエラはそう言い残して、去っていった。

 一人、残されたアンリは少し悩んだ後、怪我した団員達の様子を見に行くことにした。

 確か今はメイヤーがいないはずだ。

 何故かメイヤーがいるときに様子を見に行こうとするとトトが怒りに来るのだ。


「何で、あそこまで怒るのか俺には理解が出来ない…」


 アンリはため息をついてテントの中へ入ると、眠っている団員達の様子を一人一人伺っていく。

 皆、昨日よりも遥かに顔色も良くなっている。

 きっと、今日の昼には元気になるだろう。


「よかった。…あ」


 アンリはテントの奥で寝ているメイヤーを見つけた。

 布団も何も敷かずにその場で眠っているメイヤーを見た後、トトが近くにいないことを確認してから余っていた毛布をかけてやった。


「…ん。あれ、アンリ…?」


 メイヤーが布団をかけたことによって目を覚ましてしまい、アンリは申し訳なさそうな顔をした。


「ごめん、起こしたか?」

「いいえ、ありがとうございます」

「ずっといたのか?」

「はい、兄にはいい加減、休めと言われていたんですけど。…外に行きましょう?皆を起こしてしまいますし」


 メイヤーの提案で、二人は外に出る。

 日の下に出るとメイヤーの顔色が悪い事がよくわかる。


「大丈夫か?」

「はい。ご心配おかけします。…魔力が落ちる前まではこれくらいの人数の怪我なんて、簡単に治せたのです。ココの怪我だって直ぐには無理かもしれませんが、治せない怪我ではなかったのです。…自分が情けなくてしょうがない」


 メイヤーはそう言って、唇を噛み締めた。

 そんなメイヤーを見て、アンリはため息を着く。


「情けなくなんかない。皆きっと、そんなこと思ってないさ。徹夜で看病するなんて誰でもできる事じゃないんだ。お前が落ち込んでどうする」


 アンリはそう言ってメイヤーの頭を撫でる。


「アンリは優しいですね」


 メイヤーは微笑む。


「そんなに優しくすると好きになってしまいますよ?」




「な!?」


 そんな声をあげたのは、街に行くためにアンリを呼びに来たシャロン。

 二人が何やら深刻そうな話をしていたから、テントの影で隠れて様子を伺っていたらこんな状況になってしまった。

 盗み聞きなんて良くないと思ってはいるのだが、身体が動かない。

 何故か自分の心臓がドキドキする。




 アンリはキョトンとした後、嬉しそうに笑った。


「ありがとう。俺もメイヤーのこと好きだ」

「え!?」


 予想していなかった言葉にメイヤーが顔を赤くした。


「そ、それって…」

「うん。メイヤーは俺の悪口言わないし、助けてくれるし、良い奴だし嫌いになる理由なんかないだろ?」

「…あ、そっちの“好き”でしたか」

「え?他の意味で好きってあるか?」


 不思議そうな顔をするアンリにメイヤーは首を横に振った。


「いえ、なんでもありません。ただ、いつかわかってくださればそれで良いです」

「?」


 よくわからないと言いたげに首をかしげるアンリ。


「じゃあ、私は戻りますね」


 メイヤーはそう言い残してテントへと入って行った。


「なんだったんだ…?「アンリ!」


 アンリの言葉を遮るようにシャロンが、怒鳴る。


「え、シャロンいつからいたの?」


 突然現れたシャロンにアンリが驚いて聞く。


「い、今来たところよ!そんなことより、街に行くんだったらもっと分かりやすいところにいてよね!ほら、行くわよ!」


 シャロンがアンリの手を引いて歩き出す。


「わ、ちょ!シャロン、なんか怒ってる?」

「怒ってない!」


 そう言って怒鳴るシャロン自身、何でこんなに苛立つのかよくわかっていなかった。

 ただ、二人の会話を聞いて何故か胸がモヤモヤしていた。



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