救援
「リラースタンの守護者…?ここからリラースタンまでは夕方まで掛かるのになんでここに?」
不思議そうに聞くアンリにリリアがニコリと笑う。
「たまたまここの場所でワイバーンの状態を確認していたのですわ。本当に貴女方は運がよかったですわね」
「ああ。…話はこれくらいだ。あそこの連中の手当てをしないと」
レルムは険しい顔をしてリリアに、横転している馬車を指をさして言う。
「そうですわね!では、また後で」
二人は慌ただしそうに横転した馬車へ向かう。
きょとんとその背中を見ていると、二人の元に団長とシエラが駆け寄ってきた。
「二人とも大丈夫か!?」
「大丈夫だけど、皆が…!」
シャロンの言葉に団長が頷く。
「わかってる。それにしてもレルム達がいて助かった…。早く皆を手当てしないと」
団長はそう言い残して、レルム達のもとへ向かう。
「他の皆はとりあえず、安全そうな場所に避難させといたからアンリとシャロンはそこへ行っててくれ」
シエラの言葉にアンリが首を横に振る。
「俺も手伝う。怪我人をメイヤー達のもとへ運ばないといけないだろ?人手が多い方が早いだろ?」
「そうだな。ありがとう」
シエラはにかっと笑うとアンリに背を向けて走り去る。
シャロンもシエラの後を追おうとしたが、アンリに止められた。
「シャロンはメイヤー達の方へ行ってて」
「え?なんで?」
「あそこは人間の血が多い。どこまで呪いに耐えられるかわからない」
アンリの言葉を聞いてシャロンはサッと顔を青ざめさせた。
前にアンリを殺しかけた前科かがある。
絶対に大丈夫。だなんて言えない。
「…わかった。アンリは大丈夫なの?」
アンリは肩をすくめた。
「わからない。でも、少なくてもシャロンよりは殺人の欲求と長く付き合ってるんだ。多分大丈夫だと思う」
シャロンは苦笑すると頷いた。
アンリも笑い返すと、馬車へと走る。
横転した馬車の中から団員達が次々と運び出されていた。
人数は六人。
皆、血まみれてぐったりしているが息はある。
怪我人たちを早速、レルムとリリアと団長が手当てをしていた。
魔法が使えないシエラはタオルなどで止血をしていた。
アンリはその光景を見て、グラリと視界が揺れる気がした。
濃い血の臭い。
魔物や魔獣とは比べ物にならないくらい芳しい香り。
もしも、ここにいる全員を叩ききって新鮮な血を浴びることが出来たら…。
アンリは唇を噛み締めて、手を強く握りしめた。
「アンリ、大丈夫か?顔色悪いぞ?」
シエラの心配そうな声。
アンリはふぅ、と息を吐き頷く。
「悪い、大丈夫」
アンリはそう言って鞄から魔法薬を取り出すと、傷が比較的浅い者に薬を使う。
その間、アンリの心臓は激しく脈打つ。
まるで殺したいと、訴えかけるように。
そんなことは絶対にしない。
そんなことすれば、もう彼女と面と向かって会えなくなってしまう。
チョコレートケーキをくれた彼女。
彼女と面と向かってもう一度、堂々と会いたい。
アンリは深呼吸をして手当てをする手を動かした。