父の形見
自室から戻ってくると、アーシェはニヤリと笑う。
「ほら、右手を出しなさい」
アーシェに促され、シャロンはおずおずと右手を差し出す。
アーシェはシャロンの右手を掴むと金色のブレスレットと中指に指輪を通した。
指輪には透明は石が一つ埋められていた。
シャロンはブレスレットと指輪をまじまじと見つめる。
金色のブレスレットと指輪には、ルーク文字が書かれていた。
ルーク文字は魔力の宿る文字。
魔法使い達が魔術を本に書くときや魔具にもちいられるときに使われるのだ。
「これって…魔具?」
「誕生日プレゼント。それはお父さんが使ってたものよ。お母さんは魔法が使えないからわからないけど、アンネの話だと魔力をブレスレットに注げばいいみたいよ?」
「えっ!師匠と会ったの!?」
「もちろん、私とアンネは仲がいいのよ?」
ウインクしてくるアーシェにシャロンは苦笑いを浮かべる。
師匠にお母さんが余計なこと言ってなければいいけど…。
アーシェは話好きで、なんかあるとすぐシャロンの話をし始めるクセがある。
とりあえず、今は余計なことは考えずに魔具を使ってみよう。
シャロンはアーシェの言葉通りにブレスレットに、魔力を流し込む。
するとブレスレットが輝きだし、気づいたときには金色の弓が現れた。
ブレスレットが弓に形を変えたのだ。
「すごい…!」
目を輝かせるシャロンを見て、アーシェは嬉しそうに微笑む。
「ほら、庭に出るわよ」
「あ、ちょ、ちょっと!」
アーシェに腕を捕まれて、強引に外へ連れ出されると庭に生える大きな木の前に立たされた。
「今度は弓を引きながら、指輪に魔力を注ぐのよ」
アーシェにアドバイスをしてもらいながら、シャロンは木に向かって弓を引く。
シャロンは深呼吸してから、指輪に魔力を注ぎこんでみた。
すると指輪の石が黄色に輝き、シャロンの主魔法である雷の力が矢の形となり、弓に装填された。
「本当にすごい…!!!」
「ほら、感動してないで早く射ってみなさい」
「うん!」
シャロンは木に狙いを定め、矢を放つ。
雷の矢は見事に木の中央に突き刺さり、木に電撃がほとばり、木を一瞬で焦がす。
「うんうん、アンネに相談してシャロンに弓を教えてもらった甲斐があったわね」
アーシェは満足そうに頷く。
「最近、急に師匠が弓を教えだしたのってお母さんのせいだったの!?」
「そうよ?誕生日にお父さんが使ってた魔具をシャロンにあげたくて。きっとお父さんも喜んでるわ。…その魔具の銘は【ユエルス】大切に使いなさい。まだまだ先だろうけど、魔法使い認定試験で完璧に使えるように頑張りなさいよ」
「ありがとう!私、頑張るから!」
シャロンはユニルスをブレスレットに戻し嬉しそうに眺めた。
弓の名手と名高い月の女神の銘を持つブレスレットと指輪に相応しい魔法使いになろうと心に誓う。
「私、きっとお父さんみたいにたくさんの人を救える魔法使いになるから…」
「あんまり無理しないようにね」
アーシェはそう言ってシャロンを抱き締めた。
「うん、ありがとう」
シャロンは礼を言うと恥ずかしくなり、アーシェから離れる。
「じゃ、じゃあ、行ってくる!夕飯までには戻るから!」
「はいはい。気を付けてね」
アーシェは苦笑いをしてシャロンを送り出すと、ため息をつく。
「誰とでも仲良くなれるのはあの子の良い所だけど、あまりコロナと関わって欲しくは無いのよね」
同じアンネの弟子だから、仲良くするのは無理だと言うのもわかるのだが。
「ま、しょうがないわね。さて、パーティーの準備しないと」
アーシェは、気を取り直すと家の中へと入っていった。