和解
「あーぁ、負けちゃった。ちょっと自信あったんだけどな」
シャロンはそう言って寝転んだままアンリを見上げる。
アンリは困惑したままシャロンに手を差し出した。
シャロンは黙ってその手を取ると起き上がりその場に座る。
「何で俺に戦いをしかけたんだ?本当にアシスは俺を「シャロン」
アンリの言葉を遮ってシャロンが言った。
「え?」
「アシスじゃなくてシャロンって呼んで」
アンリは驚きすぎて、口を開けてポカンとしている。
シャロンはその顔が可笑しくてクスクス笑った後、立ち上がりアンリと向き合う。
「私、アンリに言いたいことがたくさんあるの。…まずは、ごめん。私、昨日のアンリとシエラの話を盗み聞きしてたの」
「え!?」
シャロンの告白にアンリは急に恥ずかしくなってきた。
昨日の会話をきかけれてるとは思ってなかった。
変なことは言っていないとは思うが…。
「ごめん。でもね、それでアンリの気持ちが少しわかった。今まで本当にごめんなさい。…あの時、命がけで私とコロナを助けてくれようとしたこと。…私がアンリの事を嫌いなのを知ってても一緒に旅に出てくれたこと」
そう言ってシャロンは涙を溢して笑った。
「ありがとう。私を助けてくれて、呪いを一緒に受けてくれて、嫌いだと知っても一緒に来てくれて本当にありがとう。それにコロナのお墓を作ってくれてありがとう…!」
シャロンは手の平で乱暴に目を擦る。
「やっと言えた。ずっと言いたかったの。でもなかなかお礼を言えなくて…」
「アシス…」
アンリがそう言った瞬間、シャロンがギロリと睨む。
アンリは肩をビクッと震わせて慌てて訂正をする。
「シャ、シャロン!」
言い直した後、アンリは小さくため息を溢す。
「ア…シャロンにお礼を言って貰えるほどのことを俺は出来てない」
「ううん。アンリは十分すぎるくらい私を助けてくれてる。だからね、あの時の事を自分の罪だと思って欲しくないの。あれはアンリのせいじゃない。全ての元凶は私なんだから。これは私が背負うべき罪なんだ」
シャロンの覚悟を決めたような顔を見てアンリは困ったような顔をした。
「…じゃあ、これも半分にしないか?助けられなかったのも事実だし」
アンリの提案にシャロンは驚いた後、顔を綻ばせた。
「…ありがとう。やっぱりアンリは優しいね」
そう言ってシャロンは、思い出したように手を叩く。
「そういえば、まだアンリに戦いを仕掛けた理由を言ってなかったよね。…アンリと歩み寄るにはどうしたらいいのかわからなかったの。どうしたらアンリを許せるのか、素直になれるのかわからなかった。だから戦いを仕掛けてみたの。よく男の子同士で喧嘩したときは拳と拳で語り合うでしょ?あんな感じで戦いの中で何かわかるかなって」
「…で?わかったのか?」
シャロンは首を横に振る。
「男の子の気持ちはよくわからない。でも戦っててアンリはやっぱりキュールじゃないって事はよくわかった。私が本気で戦いを仕掛けたのに、アンリは真剣に戦ってくれたけど、最後は私を守ってくれたし。アンリはきっと自分の快楽の為だけに人を殺さない。それはわかった」
シャロンはニコッと笑ってアンリに手を差し出す。
「?」
戸惑うアンリにシャロンは焦れったくなってアンリの手を掴む。
「正直、まだアンリの事はちょっと苦手。ごめんね?でも、アンリを信用しようと思う。これからたくさんアンリの事を知って理解していく。…だから、この握手は一次休戦ってことで」
「休戦?」
「そう、私にとっての休戦。アンリの事を憎むのも恨むのも怖がるのもこの旅が終わるまでやめるわ」
「…旅が終わったら?」
アンリの言葉にシャロンがニヤリと笑う。
「それはアンリ次第だよ。…これからよろしくね、アンリ」
アンリは苦笑して頷く。
「努力するよ。…よろしくな、シャロン」
この日、二人はようやく本当の仲間になれたのだった。