勝負
シャロンの目を見れば、この前と違って呪いによる耐え難い殺人衝動に侵されてる訳ではないことがわかる。
これはシャロンの明確な意思だ。
そんなに、俺の事が嫌なのか…。
呪い関係なしに俺を…!
アンリは俯いて下唇を噛む。
これがシャロンの意思だと言うのなら…。
アンリは顔をあげて氷月華を構えた。
その目には、一切の迷いがない。
シャロンはゾクッと一度と背を震わせた。
アンリが本気になった…!
シャロンは小さく笑う。
でも、これでいい。
シャロンは弓矢を三度放った。
アンリは矢を避ける。
『木の根よ、拘束しろ!』
「!?」
アンリの呪文によって現れた根がシャロンの足に絡み付き、一気に身体を持ち上げれ逆さに宙吊りにされた。
しかも、逆さになったことによってシャツが捲り上がり、腹が微妙に見える。
「ちょっと!女の子になんて事してるのよっ!」
顔を赤くして必死にシャツを引っ張りお腹を隠しながら叫ぶシャロンにアンリは首を傾げた。
「…?いや、ただ、弓の攻撃を防ぎたいだけなんだけど」
むしろ、何故宙吊りにされて怒ってるのか説明してもらいたい。
「あんたに女心を求めた私がバカだったわよ!」
シャロンは手を振りかざす。
すると、雷がアンリに向かって落ちたが飛び退きそれを回避する。
シャロンはその隙に根を焼ききり、地面に着するとアンリに手を向ける。
『吹き荒れろ、風!』
シャロンの声に応じて風が吹き荒れると、アンリを中心に渦を巻き始め、やがてそれは大きな竜巻へと姿を変えるとアンリを巻き込み、宙へと吹き飛ばす。
風の中では石や葉が物凄い勢いでアンリに襲いかかる。
アンリに身体を丸めて何とか耐える。
風が収まり、空中に取り残されたアンリに向かってシャロンはユエルスを構える。
「空中なら避けられないでしょっ!」
シャロンは得意気に言って矢を射る。
アンリは氷の盾を作り、それを防ごうとしたが矢は氷の盾を砕く。
「!?」
矢の軌道が盾に邪魔され微妙にずれてアンリから僅かにそれた。
この前より貫通の威力が増してる…。
エドウィンと戦った時はそんなに威力はなかった。
盾では防げないか。
「今度は俺から攻撃させてもらう」
アンリがそう宣言するのと、同時にシャロンは足元に違和感を感じた。
土が盛り上がって…。
まだ、アンリは呪文を唱えていない。
てことは…!
シャロンが慌てて駆け出すのと同時に氷柱が地面がつき出してきた。
しかも、氷柱はシャロンが足を踏む度に次々と地面から出てくる。
走るのを止めれば間違いなく氷柱の餌食だ。
これじゃ、攻められる一方だ…!
「なめないでよね!」
シャロンは地面に着地したアンリに指をさす。
すると、雷の柱がアンリを囲むように数本現れ逃げ道を防ぐとアンリに雷の柱が向かってきた。
アンリは地面に手を触れると、氷柱が勢いよく突きだしアンリを宙へと押し上げる。
ここまで来れば、雷の柱は届かない。
アンリを押し上げきると、氷柱が霧散して消えた。
それを狙っていたかのように再びユエルスをシャロンが構えていた。
アンリがそれを見てニヤリと笑うと、シャロンに向けて手を伸ばし巨大な氷の塊を放つ。
それを見てシャロンも矢を射る。
氷の塊は雷の矢に砕かれて破片が周囲に飛び散る。
『燃やせ、炎!!』
アンリの声に合わせて氷たちが一斉燃え出し煙をあげて蒸発すると、シャロンの視界を遮る。
シャロンは焦って煙の方にユエルスを構える。
いつ煙の中から姿を現すかわからない。
だが煙が晴れた瞬間、シャロンは息をのむ。
宙にいたアンリがいない。
「どこに…!?」
ハッとして後ろを振り返った刹那、シャロンは押し倒された。
「…?」
力強く押し倒されたから痛いと思って目を閉じたのに全然痛くない。
しかもなんか頭の下が地面ではなく何かを下敷きにしているような感じがした。
恐る恐る目を開く。
アンリの茶色い瞳が予想以上に近くにあった。
しかも、顔に吐息がかかるくらい近い。
だんだん恥ずかしくなってきて、顔をそらそうとしたが首筋にナイフを押し付けられてて出来ない。
そこでようやく、シャロンは状況を飲み込めてきた。
どうやら、地面に押し倒したときシャロンの頭を守るためにアンリが左腕で地面に直接ぶつかるのを防いでくれたらしい。
自分から勝負を仕掛けといてアンリに腕枕をされるとは…。
シャロンはため息を着いた。
「わかった、降参。私の負けよ」
その言葉を聞いて、アンリは肩の力を抜きシャロンの上から退いた。