償い
「…罪か。でも、それってお前の罪じゃないだろ?あくまで親父さんの罪だ。 お前の背負うべき物じゃない」
シエラの言葉にアンリが驚いて絶句する。
今までそんな事、一度だって言われたこと無い。
アンリの表情を見て、シエラは笑う。
「当たり前だろ?お前はお前で、父親は父親だ。父親がたくさんの人を虐殺したとしても、お前が虐殺した事にはならない。そうだろ?」
「で、でも…!俺が生まれたのがきっかけで…」
「元々、魔族は殺人衝動が強いって聞く。…長い間耐えていたなら、いつかは耐えられない時が来るかも知れない。それがたまたま、お前が生まれたときだったってだけだろう?」
「…だけど村人はそう考えてなかった」
アンリの言葉にシエラが頷いた。
「だろうな。恨むべき相手を失ったら、恨む矛先は自然とその血族に向かうだろうからな。仕方ないかもしれない。誰だって憎しみをぶつける物が必要だから」
シエラは頭をガシガシ掻きむしるとため息を着く。
「だからってお前が父親の罪を背負う必要なんてこれっぽっちも無いんだよ。大きい声で叫んでよかったんだよ。“俺が何をした!”って、怒鳴って逃げ出したって本当はいいんだ。お前は何一つ悪いことなんてしてないから。…それでも、罪を償えって言うなら、お前は今まで十分すぎるくらい償ったんじゃないのか?…村人達の想いをずっと一人で背負って罵声とかに耐えてきたんだ。それでも、償いきれてないって言う奴がいたら俺のところに連れてこい。そいつにアンリと同じ苦しみを与えてやるから」
そう言ってニヤリと笑うシエラにアンリは笑って頷くのと同時に涙が一筋、つぅっと頬を伝いこぼれ落ちた。
「あ、れ…?何で涙が…」
アンリは慌てて目を擦るが、涙は次から次へとこぼれ落ちていく。
「泣くなよ、アンリ。…少しは肩の荷を下ろせ。もっと楽に生きて、これからを楽しめよ」
「…ありがとう」
アンリは心の底から礼を言った。
きっと、シエラの言う通りに楽に生きていけないと思う。
村人達への罪悪感は拭えることは永遠に来ないだろう。
それでも、そう言ってくれることが嬉かった。
過去や呪いを知って尚も、自分を励ましてくれるシエラの優しさが本当にありがたいと思った。
「礼を言われるような事はしてないぜ?」
照れたように言うシエラにアンリは首を横に振る。
「そんなこと無い…。本当にありがとう」
「よせよ、照れ臭いだろう?…それに俺も本当は善人なんかじゃないんだ」
「?」
きょとんとするアンリにシエラは苦笑した。
「それはまた今度、話すよ。…それより、シャロンを助けたのはやっぱり償うためなのか?」
アンリの話によれば、共有魔法は呪いを半分にすることで効力を弱められるらしい。
アンリにとってはハイリスクでしかない。
「いや、そういう訳じゃなくて、森で魔族の気配を感じて倒さなきゃって思ったんだ。村に入れるわけには行かないし.…俺にも半分血が入ってるから勝てる。とまで、行かなくても互角には殺り合えると思ったんだけど、全然ダメだった」
アンリはその時の事を思い出してため息を着く。
「魔族は倒せないし、その場にいたアシスは魔族になる呪いをかけられるし、コロナは殺された。…俺が弱かったばっかりに。だから、アシスだけは絶対に助けようって誓ったんだ。今度こそ彼女を何があっても助けてみせる。例えこの命が尽きようとしても。…まあ、これは父親の罪を償うと言うより自分の罪を償うためかな?」
「そっか。…シャロンがそれをわかってくれるといいな」
「…」
アンリは無言で頷くと、見張りに集中しようと神経を尖らせた。
「シャロン…?聞いてた?」
運転席に近い、幌の壁に寄りかかってアンリ達の話を聞いていたシャロンとチコ。
シャロンは無言で頷くと立てていた膝に顔を埋めた。
アンリの気持ちを知った今、自分はどうするべきなのかわかってる。
後は素直になれるかどうか。
シャロンはしばらく考え込み顔をあげると力強く頷いた。
「…よし!」
「シャロン?」
「チコ、私頑張るね!」
「え?あぁ…うん。頑張れ!」
よくわかんないが、とりあえず応援してみたチコだった。