作戦
馬車へ戻ると、パンケーキのいい香りが辺りを満たしていた。
アンリはその匂いを胸一杯に吸い込むと、うっとりとため息をつく。
「パンケーキなんてたまに来る旅人から話を聞いていた位だけど、美味しそうな匂いだな…」
「キナの作るものは何でも美味しいですよ?」
メイヤーはクスッと笑う。
「お帰り!メイヤー、アンリ!!」
二人が森から出てきたのに気づいてシエラが駆け寄ってきた。
「うわ!熊じゃん!すげーでかいな!!」
アンリが担いできた熊を見てシエラは目を輝かせた。
「これは今晩、ミートパイにしてもらわないとな!」
「ミートパイ!!」
アンリはゴクリと唾を飲み込む。
ミートパイはアンリの大好物だ。
アンリたちがそんな話をしていると、一人の青年が近寄ってきて熊を見て満足そうに頷いた。
「これはいいな。いい感じに身がしまってるし」
「キナ!今晩はミートパイにしようぜ!」
シエラにキナと呼ばれた青年はニカッと笑う。
「だな!今晩は腕によりをかけるぜ!…メイヤー、水ありがとうな」
「いえ、今日は当番ですからお気になさらず」
メイヤーはバケツをキナに渡す。
「よし、朝ごはんにしよう!アンリ、悪いが熊をこっちまで持ってきてくれないか?」
「わかった」
アンリはキナと共に食材を積んである馬車へ向かう。
「アンリ!熊を仕留めたんだって?すごいじゃない!」
そう言って駆け寄ってきたのはチコ。
その隣にはシャロンもいる。
シャロンとチコは仲良しになったようで、常に一緒に行動していた。
「違うよ、メイヤーが仕留めたんだ。俺は見てただけ」
アンリの言葉にチコは顔をしかめる。
「そうなの?シエラが熊を仕留めたって言ってたのに…。全く、シエラの早とちりか。ね?シャロン」
「え、ああ、うん。…そうだ!私、食器並べる手伝いしてくるね」
「え?あ、ちょっと待って!シャロン!!」
シャロンはチコの制止を聞かずに、足早にその場を離れて行った。
「もう、シャロンってば…。ねえ?アンリ…ってあれ?」
さっきまで近くにいたのに、アンリもその場から姿を消していた。
「もう、あの二人なんなのよ!」
チコがぷくーっと頬を膨らませていると、シエラがやって来た。
「どうした、チコ?顔が風船みたいになってんぞ」
「風船じゃない!ていうか熊はメイヤーが仕留めたんじゃない!」
「そうなのか?悪い悪い、アンリが持ってたから。つい」
シエラは頭を掻きながら笑った。
そんな、シエラを見てチコは肩を竦める。
「あんたはいつも適当ね…。そんなことはどうでもいいか。ねえ、シャロンとアンリって仲悪いのかな?二人を見てるとお互いなんか、避けてるみたいなんだよね」
「チコもそう思うか?俺もそう思ってる。一緒に旅してるのに仲が悪いなんて…なんか、嫌だよな」
シエラはそう言うと、チコに笑いかける。
「なあ、俺らで二人の仲を取り持ってやれないかな?」
「え!?仲を取り持つ?」
「うん、やっぱり一緒に旅をするなら楽しい方がいいだろ?アンリってなんか、一人で背負い込んでる気がするし何とかしてやりたいんだ」
シエラの言葉にチコはちょっと考え込むと頷いた。
「そうだね、アンリには迷惑をかけたしここは借りを返す所だよね!シャロンも大好きだし協力しないわけ無いよ」
「よし、今晩決行な!」
「うん!」
二人はハイタッチをすると、朝食の席へと戻った。