熊
その時、すぐ近くで獣の咆哮が聞こえた。
アンリとメイヤーは顔を見合わさると、後ろを振り返った。
そして、茂みを睨むように見ていると中から熊が出てきた。
アンリはバケツをその場に置くと氷月華を抜刀する。
「メイヤーは下がって」
アンリはメイヤーの前に立つ。
「いいえ、アンリ。ここは私に任せてもらえませんか?」
「え?」
驚くアンリを押し退けると、メイヤーはローブの下に下げていた小さなショルダーバッグからカードを一デッキ取り出す。
「アンリに術具を見せるいい機会ですし」
メイヤーはそう言ってカードを一枚取ると熊に投げつける。
「雷!」
メイヤーの声でカードが光を放ち雷がカードから放たれた。
雷は熊の体を貫く。
[があぁぁぁぁぁぁ!]
熊が悲鳴を上げた刹那、口から炎を出してアンリ達に放つ。
アンリとメイヤーは同時に左右に飛び退きそれを回避する。
「あの、熊の主魔法は火ですね」
「…ああ、てことはあの皮は防火性に優れてるな。街で売ったらいい値段で買って貰えそうだな」
アンリの言葉にメイヤーは苦笑するとカードをさらに一枚、手に取る。
「倒せたらあげますね」
メイヤーはアンリとそんな約束を交わすと、今度は熊の足元にカードを投げる。
「水!!」
カードが輝きだし、水柱が吹き上がり巨大な熊の体を一気に宙へと押し上げた。
さらにカードを水柱に投げる。
「雷!!!」
水柱の中で閃光が走るのと同時に、熊の断末魔の叫びが森に響き渡った。
水柱が消えると空から熊が白目を向いて落下してきた。
アンリは熊に駆け寄ると生きているか確認する。
「死んだか…。カードってすごいんだな」
「金銭的なコストはありますけどね」
メイヤーはほっとしたように言う。
アンリは熊を担ぎ上げると、バケツを持とうとしたが熊で両手が塞がりうまくできない。
「私が持ちますよ」
メイヤーは苦笑するとバケツを両手に待つ。
「悪いな。熊の肉は料理番のキナにくれてやろうか」
「キナ、喜びますよ」
メイヤーは弾んだ声で言う。
「あー、お腹すいた。今日の朝ごはんなんだろうな?」
「パンケーキとか言ってましたよ?」
アンリはそんな会話をしながらメイヤーと、共に馬車へと戻る。