術具
アンリとシャロンがドラゴンキング劇団と行動を共にして、二日目の朝を迎えていた。
予定なら明後日にはリラースタンに着く。
馬車は朝と夕方の二回だけ、止まり後はひたすら馬車を走らせていた。
アンリはそんな僅かな時間を利用して、一人馬車を離れて森の中に入ると氷月華で素振りをしていた。
朝の陽射しが木漏れ日として差し込み、森の中を幻想的にさせていた。
そんな中でアンリは見えない敵を想定して氷月華を振るう。
しばらくして、アンリは氷月華を構えて制止すると深呼吸をした。
「…ふっ!」
アンリが短く息を吐き出して、氷月華を高く掲げて降り下げた。
氷月華が振り下げられたその刹那、氷月華から放たれた魔力が氷となって近くにあった木を数本薙ぎ倒した。
森に響く木の音に、アンリは満足そうに笑うと額に浮かぶ汗を拭う。
「こんなもんかな」
氷月華を軽く一振りして、鞘に納めると馬車に向かって歩き出す。
長年、森の中で住んでいたアンリにとってやっぱり森の中は一番落ち着く。
「街も気になるけどな…。たくさん人がいるんだろうな…」
たくさんの人が住む街ってどんなものなのだろう。
「…あ」
アンリがそんなことを思っていると目の前に両手の片方ずつにバケツを重たそうに持ったメイヤーが歩いていた。
アンリはメイヤーに駆け寄ると、両手のバケツを変わりに持ってやる。
最初、バケツを奪われたのかと思ったメイヤーはぎょっとした顔をしたが、アンリを見て安堵のため息をついた。
「なんだ、アンリですか」
「重いだろ?持つよ」
「ありがとうございます」
アンリとメイヤーは肩を並べて馬車へと向かう。
そして、アンリはずっと気になっていたことを聞いてみた。
「そういえば、メイヤーは魔女なんだよな?」
「ええ、そうですよ」
「でも、最近魔力が弱くなったって言ってたよな?」
「はい、急に魔力が衰えてしまいました…」
メイヤーは悲しそうに言う。
アンリは内心、やっぱりと思う。
アンネも魔力が衰えたと言っていた。
しかも、魔族が関わってると。
「一体、何をしようとしているんだ…?」
アンリの顔が急に険しくなり、メイヤーは首をかしげた。
「アンリ…?」
「何でもない、ただの独り言。でも、主魔法が回復魔法だといざってときに戦えないな」
アンネから聞いた話だと、主魔法でも回復だと魔力の消費が激しい。
回復魔法は人の命を左右する魔法だから。
「そうですね。でも、私はこれを使ってるので、とっさに戦えますよ」
そう言ってメイヤーが懐から出したのは一枚のカード。
「…これは?」
「術具の一つです。カード魔法です」
「じゅつぐ…?」
「術具は魔具と違って使い捨ての物です。一回の発動で使えなくなってしまうのですが、今の私にはちょうどいいんです」
メイヤーはそう言ってカードをアンリに渡す。
カードの裏面には魔方陣が描かれてあり、表面は真っ白だった。
だが、カードからはメイヤーの魔力を感じることが出来た。
「このカードは戦闘用でカード一枚一枚に魔力が込められています。後はどんな魔法を発動させたいか、イメージを浮かべて呪文を言えば魔法が使えるんですよ。魔力はあらかじめ、カードに込められているので、その場で魔力を消費することなく使えるので便利なんです」
「初めて知った。すごいな」
「はい。でも、魔力をカードに閉じ込めるのは夜にするので私は馬車の見張り番はできないんですけどね…。いつも皆さんには申し訳ないと思っています」
「しょうがないさ。誰もお前の事を責めたりなんかしないさ」
アンリはそう言ってメイヤーを励ますように笑う。
メイヤーも笑い返す。
「アンリは優しいんですね」
「え、そんなことないけど」
アンリは少し顔を赤くして言った。