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罪人たちに夜明けを  作者: 紅月
第二章
33/187

断章

 深い森の上を一羽の大怪鳥、ルフが悠然と空を飛んでいた。

 その上に乗るのはエドウィン。

 ルフが向かうのは、森の一番奥に佇む巨大な城。

 城の上に着くと、ルフはゆっくりと城の上を旋回してから広いテラスへと降り立った。

 エドウィンは、ルフから飛び降りると頭を撫でてほしくて自分の体に頭を擦り寄せてくるルフの頭を優しく撫でる。


「ご苦労、戻れ」


 エドウィンの言葉でルフは大きな声で一鳴きすると、光の粒となり霧散した。


「お帰りなさいませ、エドウィン様」


 不意に聞こえた男の声にエドウィンは煩わしそうな顔をして声の方を見る。


「私はもう“様”をつけられるような立場ではないと言ったはずだ、オルガ」


 テラスの端で静かに立っていたオルガと呼ばれた男はエドウィンに恭しく頭を下げた。


「いいえ。いつまでもエドウィン様は僕の主ですから」


 オルガはそう言ってエドウィンに微笑む。

 その笑みが、エドウィンは大嫌いだった。

 全てを理解しているようなその笑みが大嫌いだった。


「僕は何があってもエドウィン様の側を離れません」

「何があっても、か。…なら!」


 エドウィンは指輪に変えていた鎌を出すと、オルガの首に向かって振り払う。

 ブンッと空を斬る音。

 鎌はオルガの首筋に紙一重で止まっていた。

 オルガは微動だせず、エドウィンをただ見つめる。

 エドウィンも黙ってオルガを見つめ返す。


「…」

「…」

「…」

「…目障りだ」


 絡み合う視線に痺れを切らして、エドウィンは鎌をオルガから離して、吐き捨てるように言い放った。


「消えろ」

「いいえ。僕は貴女を一人になんてさせません」


 嘘偽りのない言葉。

 エドウィンは舌打ちをする。


「勝手にしろ」

「はい、貴女が僕を殺すその日まで」


 背後から聞こえる穏やかな声。

 きっと今、オルガはエドウィンの大嫌いな笑みを浮かべているに違いない。


 こんな奴は関わるべきじゃない。


 エドウィンが足早にテラスから離れようと歩き出す。


「あ、エドウィン様。陛下が戻ったら来るようにと仰っていました」


 エドウィンは黙って頷くと、オルガのまえから逃げるように螺旋階段に繋がる扉を開けてなかへ消えていった。

 オルガはその背中を見おくると、寂しそうにため息をつき空を見上げた。

 空には綺麗な満月が恍惚と森を照らしていた。


 エドウィン様が、昔のように笑ってくれますように…。


 オルガは満月に願い事をすると、自分もテラスを後にする。






 エドウィンは螺旋階段を降りると、静かな廊下に足音を響かせながら歩く。

 目指すのは、魔王が待つ玉座の間ではない。

 エドウィンはある部屋の前に立つと、近くに誰もいないことを確認して扉を開いた。

 その部屋は物置として使われ、普段は誰も来ない場所。

 一番奥まで物を退かしながら歩くと壁の前に立つ。

 そして、気を付けて見ていなければ見逃してしまいそうな小さな黒い宝石を見つけるとそっと指でなぞる。

 すると、宝石が輝き出し扉が現れた。


「…」


 エドウィンは隠し扉を開けると中に入る。

 中にはさらに螺旋階段が下へと続いていた。

 エドウィンはその階段を足早に降りていく。

 あの黒い宝石は城の何ヵ所かに嵌め込まれてあり、全てがこの部屋に続く鍵となっている。

 宝石に触れて鍵が開くのは王か王の血族、そして王に選ばれた極わずかな者だけ。

 それでもエドウィンが細心の注意をして部屋に入るのはオルガがついてくるのを心配しているため。

 オルガも部屋に入る資格を与えられた一人なのだ。

 エドウィンは下まで降りきると、さらに奥へと続く扉を開いた。

 扉の向こうには赤く毒々しい輝きを放つ宙に浮くエドウィンと同じくらいの大きさの巨大な宝石があった。


 この世界の魔力の根源と言われている強大な魔力を秘める宝石、魔王石。

 前王が治めてるときは、美しい青い光を放っていたのに、今ではその痕跡はどこにもない。


 エドウィンは静かに魔王石の前に立つとそっと触れた。

頬から一筋の泪が零れ落ちる。


 まだ、泣いている場合じゃない…。


 エドウィンは涙を拭うと懐からあるのもを取り出す。

 それは人間の心臓。

 コロナのものだった。

 エドウィンはそれを魔王石に押し込む。

 魔王石は輝きを一層増しながらコロナの心臓をゆっくり飲み込んでいく。

 その様子を見守った後、エドウィンは魔王の待つ玉座へと向かうために部屋を後にした。


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