出発
「これからよろしくなっ!俺の名前はシエラ・フォークス。シエラでいいぜ!」
シエラが人懐っこい笑みを浮かべる。
「えっと、俺はアンリ・ローレンス。リラースタンまでよろしく。で、こっちが…」
アンリに話を振られて、シャロンは慌てて頭を下げた。
「しゃ、シャロン・アシスです!えーと…よろしくお願いします」
そう言った後、恥ずかしそうに俯く。
村の人以外と喋った事のないシャロンにとって自己紹介なんてしたことがある筈もなく、何となく気恥ずかしく思えた。
「メイヤー・チャートです。私には双子の兄がいるんですけど、その兄と魔法で舞台効果を担当しています」
メイヤーの言葉にアンリが首をかしげた。
「舞台効果?」
「我々は演劇団なんだ」
アンリの疑問に答えたのは、座長。
座長はアンリとシャロンの前に立つと恭しく頭を下げた。
「ようこそ、我らのドラゴンキング劇団へ。私の名前はロクシュ・フリーク。ここの座長として、君たちを歓迎しよう」
座長はそう言ってアンリとシャロンに握手を求める。
アンリとシャロンは顔を見合わせると、先にアンリがその手を握る。
「ありがとうございます」
「礼はいらないさ。私も旅の仲間が増えるのは喜ばしい…」
会話の途中で座長は突然黙り込むと、アンリのウエストポーチを凝視した。
アンリもその視線に気づいて戸惑う。
「これがどうかしましたか?」
「…え?あ、いや…。その竜皮は見事だったから…。見せてもらえないか?」
まさかそのまま盗む気ではないのだろうか?
そんなことを考えたが、座長の目があまりにも真剣だったのでアンリは大人しくバッグを外して座長に渡す。
「ありがとう…。これは…。ああ、やっぱり。二年前くらいのか…」
バッグを手に触って見た後、座長は懐かしそうに目を細めてアンリに返した。
「元気そうでよかった。…ああ、すまない。全部独り言だ」
座長はシャロンと握手をすると笑いかけた。
「さて、そろそろ出発しなければ。団員達の宿泊している馬車は三台のうち、二台。真ん中のと最後尾のだな。男女関係なしに使ってるから好きな方に乗り込むと良い。他の団員との自己紹介は追い追いにして行こうか」
座長はそういい残して、先頭の馬車に乗り込んで行った。
「アンリとシャロンは俺らと一緒に乗れよ。メイヤーとチコもいるし」
シエラに言われてアンリは頷きかけて、チコの方を見るとチコがこちらを見てガルルルっと唸っていた。
「…」
「ちょっと、歓迎されてないみたいね」
黙り込むアンリに変わってシャロンが苦笑して言う。
「チコは大丈夫ですよ。本当は優しい良い子ですから。直ぐに仲良くなります。…行きましょう?」
メイヤーは二人の手を掴むと自分達の馬車に向かって引っ張っていく。
アンリは引っ張られながら小さくため息をつくと、小さく笑う。
なんだかんだ言って楽しくなりそうで、少し嬉しくなった。
このままシャロンと仲良くなれたらいいのに…。
アンリはそう願いながら、メイヤーに手を引かれて戸惑うシャロンを盗み見るのだった。