旅芸人
森を抜けて直ぐの街道に馬車が三台止まっていた。
この馬車がシエラの達の馬車なのだろう。
アンリ達が今まで歩いていた街道と森を挟んで反対のこの街道は道幅が広く、商業用の馬車などが通り人通りが多い道だ。
そしてこの街道は小さな村には通じず、大きな街にのみ通じる。
故に、国の重要な街道とされている。
馬車の前には十人くらいが集まっていた。
「おーい!シエラ!!」
その声を聞いてシエラが手を上げる。
「座長!!」
座長と呼ばれた男はアンリ達に駆け寄ると頭を下げた。
「今回はうちのチコが申し訳ないことを…」
「座長、それはいいから怪我の手当てを」
「ああ!そうか!メイヤー!!」
座長に呼ばれて現れたのは長い髪の毛を低い位置で一つにまとめ、鈴のついた紐で束ねた少女だった。
「んー、じゃあ、傷口見せてくださいね?」
優しい声でメイヤーはそう言ってアンリの腕を手に取る。
「…ちょっと、痛そうですね」
メイヤーは渋い顔をすると、アンリの傷口に手をかざした。
すると、淡い緑色の光が手から出てアンリの傷口がどんどん治っていく。
アンリとシャロンは驚いてその光景を見る。
やがて、傷は完全に塞がった。
メイヤーはちょっと疲れたような顔をして笑みを浮かべた。
「はい、これで塞がりましたよ」
「すごいな…」
アンリの言葉にメイヤーは得意気に頷く。
「これが、私の主魔法ですから」
「メイヤー、この子も足を怪我してるんだ」
シエラはシャロンの足を指差して言った。
「そうなんですか?…でも、すみません。魔力が残ってなくて…明日でもいいですか?」
メイヤーは困ったように言ってシャロンを見る。
シャロンは慌てて首を横に震る。
「大丈夫です!私の怪我大したことないし!!」
「いえ!私たちの仲間が迷惑をかけたのですから治療するのは当然です!…でも、魔力が…」
後ろから「私は無実だから!!」と抗議をするチコのことを完璧に無視してメイヤーはため息をつく。
そんなとき、座長が目を輝かせて手を叩く。
「君たちは旅人なんだろう?」
「え、まぁ…」
「じゃあ、一緒にリラースタンに行かないか?」
「「えっ!?」」
アンリとシャロンは同時に驚きの声を上げる。
座長は満面な笑みを浮かべる。
「我々は旅芸人でね、次に行くのがリラースタンなんだ。ここから馬車で四日。徒歩だともう少し時間がかかる。彼女の怪我も治せるしいいと思わないか?」
座長の提案にアンリは考え込む。
確かに、その方が旅も楽になる。
けど、シャロンの呪いが不安定でいつさっきアンリを襲ったときのように殺人衝動に駆られるかわからない。
だから、人通りの少ない街道を歩いていた。
次のアンリ達の目的の村は歩いて二日の小さな村。
シャロンの足が持つかどうか微妙だし、良い靴が見つかるかもわからない。
「アンリ…どうする?」
シャロンの困ったような声。
アンリはため息をついた。
「じゃあ、お願いするか。迷惑でなければ」
アンリの言葉にシエラが嬉しそうに抱きついてきた。