約束
「ねぇ、コロナ」
「ん?何?」
途中まで会話もなく歩いていたシャロンが立ち止まり突然、コロナに声をかけてきた。
コロナは不思議そうに首をかしげる。
「シャロン?」
声をかけてきたのに黙り込むシャロンにコロナは催促するように名を呼ぶ。
シャロンは一瞬、コロナから目を反らしてから意を決したように真剣な顔をして向き合う。
「あ、あのね…!今年は私の家にきて一緒にパーティーしない?」
シャロンの言葉にコロナは目を丸くした後、ちょっとだけ寂しそうに笑った。
「お母さんと二人で静かに誕生パーティーしたいんじゃなかったの?」
「そうだけど、結局それは無理だもん。でもね、コロナが来てくれたら嬉しいなって」
「私が行っても迷惑なだけだよ」
コロナはそう言って手をヒラヒラとさせた。
「そんなこと無いよ!私は親友にこそ来てほしい。他の人じゃなくてコロナがいいの!」
真剣な顔をして言うシャロンの顔が見てられなくなり、コロナは歩き出す。
「あ、ちょっと!コロナってば!」
シャロンは慌ててコロナの後を追う。
「村の人が何言っても私は気にしない。皆、コロナのことを誤解してるだけなんだよ!」
「でも、皆そう思ってる。私は他の村から移住してきた人間だからこの村の人たちは皆、私を嫌ってる。いつか、私もキュール・ローレンスみたいに村人を襲うんじゃないかって恐れてる」
「コロナは魔族なんかじゃない!そんなことするわけ無いじゃない!!!」
顔を赤くして怒鳴るシャロン。
「でもね、それが事実。アンリは露骨に暴言吐かれて嫌われてたけど、私の場合存在を無視されてるってだけで、ほとんどアンリと境遇が変わらない。…私もアンリも何もしてないのにね」
コロナは少し遠くを見ながら呟く。
「こんな生活に耐えれなくて親は、まだ私が小さかった頃に逃げるように私を残して村から出ていっちゃうし、なんか世の中不公平だよね」
「コロナ…」
何て言ったらいいのか分からずにシャロンは黙り込む。
コロナは大切な親友なのに、村の大人達から守ってやれない。
本当は周りからコロナと付き合うのはよくないって止められてる。
母親もコロナの事をよく思ってないけど、そんなの関係ない。
コロナは優しくて強くて自分よりも頼りになる存在なのに。
どうしたら、皆にこの思いが伝わるのだろう。
「はぁ…」
ため息をつくシャロンにコロナは頭をグシャグシャっと撫でた。
「せっかくの誕生日なのに暗くなってどうするのよ?いつものことなんだから気にすること無いわ。…誕生日パーティーには行けないけど、その代わりにシャロンにプレゼントを用意してあるの。」
「え?」
シャロンはキョトンとしてコロナを凝視する。
コロナはちょっと恥ずかしそうに頬を掻く。
「今までなんか照れ臭くてあげられなかったけど、今回はちゃんと用意したのよ?時間かけて頑張ったんだから。…だからパーティーには間に合うように帰すからちょっと私に付き合ってくれないかな?」
シャロンは顔をほころばせて喜んで頷いた。
「もちろん!…あ、でも、お母さんが心配するから一旦、家によってからでも平気?」
「大丈夫よ。私も一回家に帰って支度したかったし。シャロンの準備が出来たら私の家まで来てくれる?」
「了解。じゃあ、私急いで家に帰る!」
シャロンはそういい残して脱兎の如くコロナを置いて走り去っていった。
「全くシャロンは…。落ち着きがないわね」
コロナは苦笑すると、自分も駆け足で家路についたのだった。