乱入者
どうしたら、シャロンとうまく付き合えるのだろう。
嫌われずに、彼女を傷つけることなく普通に旅をするにはどうすれば…。
アンリは髪をぐじゃぐじゃと掻き乱す。
「そもそも人殺しの息子と仲良くしようなんて思わないだろ…。現実見ろよ、自分」
アンネに聞いた話だと、シャロンは村人たちから英雄の娘として慕われてたらしい。
シャロンの父は村人を守るためにアンリの父親と戦い、そして死んだ。
自分の父親の敵である息子のアンリと仲良くしようなんて絶対思わない。
付かず離れず、他人のように接するしかない。
それが自分の定めだ。
アンリは少し、寂しそうにシャロンの寝顔を見た。
その時、アンリは自分の木の上から何かの気配を感じ、慌てて左手でシャロンを抱き抱えると、その場から飛び退く。
それと同時に、何かが木の上から降ってきた。
「よく、私が上に居るのに気づいたわねっ!誉めてあげるわ!!」
どうやら木の上から降ってきたのは、自分達と同じ年くらいの少女だったらしい。
少女は高らかにそう言って、ビシッと持っていた剣の先をアンリの方へ突きつける。
「えっと…」
あまりの事にアンリは戸惑いながら、シャロンを近くの木の根本に寝かせた。
これでとりあえずシャロンは大丈夫だろう。
アンリは少女と向き合う。
「君は一体誰?」
盗賊か何かだろうか?
アンリはぼんやりそんなことを思いながら、左手で氷月華の柄を握る。
「普段なら外道に名前なんて名乗らないけど、私が上に隠れてるのに気づいたみたいだから、名前くらいなら教えてあげるわ!私の名前はチコ・ナターシャ!あんたたち、私たちの馬車を狙う盗賊でしょ!?」
「…は?」
突然、現れてこの女は一体何を言っているんだ。
アンリは唖然としてチコと名乗る少女を見る。
チコは得意気に笑う。
「私たちがちょっと売れてる旅芸人だから襲おうと思ってたみたいだけど残念だったわね」
彼女は旅芸人なのか。
旅芸人って何をやるんだろ?
もはやチコの話に着いて行けずにアンリは心の中で反応することにした。
「私たちは交代で見張りをつけて、旅をしてるから奇襲なんて無意味なのよ」
まあ、その方が無難だよな。
アンリは頷きながら聞く。
「だから、あんたたちも直ぐに見つけることができたわ!ていうか、焚き火をして襲う馬車を待ってる盗賊って普通いないと思うけど?」
小馬鹿にしたようにチコがアンリを見る。
アンリもその意見には全く同意である。
「あんたたち、本気で襲う気があるなら焚き火はやめなさいよね」
何故、そこまでわかっているのにアンリ達が盗賊では無いと気づかないのだろうか。
アンリはそこまで考えてハッとする。
まさか、この女…。
「ま、まさか…。お前…」
「え?何?」
「馬鹿なの?」
「…」
「…」
「は?」
チコの眉間に一気にシワが寄る。
「いや、だって、盗賊は焚き火をしないとかわかるなら、何で俺らを盗賊じゃないってわからないかな?明らかに旅人だろ?」
アンリの言葉にチコは顔を一気に赤らめると、震え出す。
「旅人のフリをした盗賊かもしれないじゃない!…ていうか、そんなことはどうでもいい!!あたしを馬鹿にした時点で斬り殺してやるんだからっ!」
チコはそう叫んで、アンリに向かって走り出す。
腕痛いしめんどくさいな…。
アンリはため息を着くと、地面に氷月華を突き刺した。
すると、瞬く間に地面を薄い氷が覆い尽くした。
「うわっ!えっ!?な、何!…ぎゃっ!」
案の定、チコは突然現れた氷に対応出来ずに足が滑り、頭を地面に強打した。
「痛っ!ひ、卑怯もの!!魔法が使えない女の子に普通、魔法なんか使わないでしょ!!」
チコが喚くが、アンリはあえて聞かない事にする。
そもそも最初に仕掛けたのはそっちなのだ。
文句が言いたいのはこっちの方だ。
「ん…?なんか騒がしい…」
魔法で眠っていた、シャロンが目を覚ましてしまった。
アンリはこの日何度目かわからないため息をついた。