衝動
「!?」
シャロンは一瞬、驚くとすぐに顔をしかめた。
ナイフはアンリの右腕に深く突き刺さっていた。
「あ…ア、シス…!」
アンリは激痛に顔を歪める。
身体が急に重くなったと感じ目を開いたら、シャロンが殺気に満ちた目でナイフを振り下ろしているところだった。
とっさに腕で防いだが、予想以上に力が強い。
「…」
シャロンは無言でアンリの腕に突き刺さっているナイフに力を込める。
「しっかりしろ!アシス!!」
アンリは何とかシャロンを正気に戻そうと叫ぶ。
これは多分呪いのせいだ。
殺人衝動が今のシャロンを支配している。
「魔族になりたくないんだろ!!自分に負けるな!シャロン!言っただろ?心を強く持たないと魔族になるって…。俺の父親のようにはなりたくないだろ?」
アンリが喋っていると、どんどんシャロンの力が抜けていく。
瞳の中の殺意も薄れた。
そして、シャロンは一度ゆっくりと瞬きをした後、ハッとしてアンリの上から飛び退く。
「あ、アンリ!」
自分がしたことに顔を真っ青にさせた。
何て事を…!
血に染まった自分の手とアンリの腕に刺さるナイフを見比べて、ガタガタ震える。
アンリはゆっくり起き上がると、ナイフを引き抜く。
傷口から血が溢れ出す。
シャロンは慌ててアンリの元に駆け寄る。
「ど、どうしよ!止血しなきゃ!!なにか縛るもの…!」
シャロンは自分の足を縛っていた草の蔓をほどくと、アンリの傷口から上に蔓を強く巻き付けて止血する。
「…っ」
脂汗を額に浮かべながら、アンリは痛みに耐える。
「ごめん、アンリ…!私…私っ!」
目に涙を溜めて言うシャロンにアンリは無理して笑みを作る。
「大丈夫、だから。…アシス、顔に血がついてる。洗ってこい」
シャロンは首を横に震る。
「アンリの治療が先だよ!」
シャロンは怒鳴った後、どうしようか悩む。
回復魔法も魔法薬も作れないのにどうやって治療する気なのだ…。
何も出来ない自分に腹が立つ。
そんなシャロンの頭をアンリが優しく撫でた。
「!?」
驚いてシャロンが顔を真っ赤にさせた。
「落ち着け。さっき使った魔法薬のあまりがあるからとってくれないか?」
シャロンは頷くと魔法薬のあまりを見つけて、アンリに渡した。
アンリは受けとると傷口にそれを塗る。
深呼吸して、痛みに身震いをする。
このまま、魔法薬が効くのを待つしかない。
「アンリ…ごめん」
「大丈夫。お前のせいじゃない。油断してた俺のせいだ。魔族の殺人衝動は強烈だから、抵抗するのが難しいんだよ」
「でも…」
「反省してるなら、自分の弱さに負けないよう努力をすればいい。」
シャロンは俯いて涙を流す。
アンリの優しさが今の自分には辛い。
シャロンは涙を拭うとアンリの顔を真剣に見つめた。
「アンリ…お願いがあるの…」
「?」
アンリは首をかしげた。