苦悩
シャロンは焚き火越しに、寝ているアンリの顔を見ていた。
アンリは静かな寝息をたてて眠っている。
何時間くらいこうしてアンリの寝顔を見てるのだろう。
村にいた頃は、まさかアンリとこんな風に旅をするとは思わなかった。
シャロンはため息をついた。
どうして、アンリがここまで自分に優しくしてくれるのかわからなかった。
きっと自分がアンリの事を快く思ってないのだって気づいてる筈なのに…。
手当てしたもらった足を見る。
もう、足の痛みもない。
回復魔法みたいに即効性は無いが、魔法薬もすぐに怪我が治る。
「回復魔法を使う資格がない、か」
その言葉はすごく重いと思う。
ずっとアンリは父親の犯した罪を自分の罪だと言い聞かせて来たのだろう。
アンリが本当は優しくて、キュールとは違う。
わかってる。
わかってるのにどうしても素直になれない。
どうしても受け入れることが出来ない。
こんな自分が嫌になる。
どうして、アンリを受け入れてあげることが出来ない?
助けてもらってばかりなのに、お礼も言えてない。
本当の自分はこんなのに性格が悪かったなんて知らなかった。
コロナの言う通り、自分はただの偽善者なんだ。
そう思うと涙が零れ落ちた。
ドロリと黒い感情が溢れてくる。
シャロンはグッと自分を抱き締めた。
辛い、苦しい、逃げたい。
なんでこんな思いをしなきゃいけない?
どうして、自分ばっかり…!
ああ、そうか。
シャロンは涙を流しながらアンリを見て微笑む。
そうだ、 アンリのせいでこんなに苦しいんだ。
・・・・・・・・・
なら、苦しみの原因を排除してしまえばいいんだ。
シャロンはゆっくり立ち上がり、手にアンリから護身用と預かったナイフを握る。
もう、終わりにしよう。
魔族になるならなってしまえばいい。
そしたらもう、楽になる。
シャロンはアンリの上に立つ。
眠るアンリの顔を静かに見つめたあと、馬乗りになった。
こいつのせいで…!
私は。
私は…!
ナイフを高く掲げた。
「お前なんか死んでしまええええええぇぇぇええっ!」
シャロンは勢いよくナイフを顔に目掛けて振り下ろした。
ブツッ、と音を立てるのと同時に顔にアンリの血が飛び散った。