資格
しばらくボーッと焚き火を見ていると、やっとアンリが帰ってきた。
手には大きな葉っぱや果物などたくさんあった。
「食事の前に先に治療からするからな」
アンリはそう言って、摘んできた花や葉っぱを平らな石の上に置くと違う石でそれらを磨り潰しながら呪文を唱える。
『生命を助ける草花よ。我、力を汝に与え人々の助けとなれ』
呪文を唱えられると、磨り潰した草花は淡い緑色に輝く。
魔法薬だ。
アンリは出来映えに満足すると、早速シャロンの足にそれを塗っていく。
「ねぇ」
「ん?」
その光景を大人しく見ていたシャロンが口を開いた。
「アンリは回復魔法使えないの?」
シャロンの質問にアンリは黙って頷いた。
「でも、アンリは魔法薬は精製できるじゃない?魔法薬だって作るのは難しいのよ?」
「魔法薬って言っても俺が作れるのは簡単なやつだけだからな…」
そう言いながら、アンリは大きな葉っぱでシャロンの足を包むと拾ってき草の蔓でグルグル巻いて固定する。
反対の足も同じように施すと、 アンリはホッとしたような表情をする。
「応急処置は終わりだ。…あとは夕飯だな。今日は果物にしてみたんだ」
アンリはそう言ってシャロンの足を放した。
「まだ、質問は終わってない。アンリの実力なら回復魔法だって簡単に出きるはずよ?」
その言葉にアンリは苦笑する。
「回復魔法より、戦闘に役立つ魔法ばかり教えてもらってたからな。回復魔法とは無縁なんだ。…それに俺みたいな奴が回復魔法を使っていいはずがない。」
「…」
村人を殺したキュール・ローレンスの息子である自分は回復魔法を使う資格がない。
アンリはずっとそう思って回復魔法を教えてもらうことを拒んできた。
本当は魔法薬の精製だって使う資格なんてない。
でも、アンネが守護者になりたいのならそれくらいは覚えとけと言うから仕方なく覚えた。
罪を背負う自分に他人を治療する資格なんて…。
アンリは首を横に振った。
「飯にしよう。アシス、リンゴ食べれるか?」
「うん」
シャロンはアンリからリンゴを受けとると一口かじった。
野生のリンゴは品種改良なんてされてないから酸味が強い。
シャロンはその酸っぱさに目を細める。
アンリを見ると、涼しい顔をして食べていた。
きっと食べなれているんだろうな。
シャロンはぼんやりと、そんな事を思う。
アンリはさっさとリンゴを食べると、シャロンに見張りを任せて先に寝てしまった。