目標
アンリは立ち止まり、振り返った。
かなり遠くの方にシャロンが見えた。
痛そうに足を引きずっている。
「足を怪我したのか?」
アンリは心配そうにシャロンを見たあと、空を見上げた。
もうそろそろ日が沈む。
シャロンの足も心配だしそろそろ切り上げた方が良さそうだ。
アンリはシャロンの方へと歩き出す。
痛いなら痛いと言えばいいのに…。
そう思って、アンリは自分に舌打ちを打つ。
シャロンにあんなこと言っておいて何を今更。
嫌いなら無理して話すこと無いって言われれば、言いにくいだろうに。
アンリはグッと奥歯を噛み締めた。
でも、これ以上シャロンのあの顔を見たくなかった。
十年間、ずっと村人たちから嫌なものを見るような目で見られてきた。
これ以上そんな目で見られたくなかった。
これから先、ずっとそんなことをされ続ければ心が保てなくなって呪いに負けてしまいそうな気がした。
呪いに負けて快楽で人を殺してしまったら、もうケーキをくれるあの子に面と向かって会うことが出来なくなってしまう。
胸を張って会える事を目標にここまで頑張ってきたのだ。
だから絶対に呪いなんかに負けない。
シャロンを絶対に助ける。
この旅が終わって試験を受けたら会いに行くんだ。
そう心に決めてアンリはシャロンの前に立つと抱き上げた。
「ふぇ!?ちょ、アンリ!!何してるの!?」
シャロンは予想外の事に驚きの声をあげる。
「足が痛いんだろ?…無理するな」
「べ、別に痛くないもん!」
「…なら、あと何時間か歩くか?」
「…」
アンリの言葉にシャロンは大人しくなる。
シャロンは恥ずかしさのあまり顔を赤くして俯く。
アンリに抱き抱えて貰うとか全然予想してなかった…!
チラッと上目遣いで、アンリの顔を見てみた。
すると、何故かアンリとキスしたときの事を思い出して更に顔を赤くした。
腕の中で顔を真っ赤にしてるシャロンに気づいてアンリがギョッとする。
「大丈夫か!?熱があるのか!?」
「ち、違う!そういうんじゃない!!」
シャロンは否定すると、顔を見られないようにそっぽを向いた。
訳がわからないアンリは首をかしげながら、歩道を外れ森の中をしばらく歩く。
どこに向かってるのか検討が突かなかったシャロンだったが、川の音を聞いて納得する。
アンリは川を目指していたのだ。
アンリはシャロンを岩の上に座らせると、靴を脱がした。
「…っ」
靴を脱ぐだけでもかなりの痛みが足を襲う。
苦痛に顔を歪めるシャロンを心配そうにアンリは見たあと足に目をやる。
シャロンの足は血が滲み、水膨れが出来ていた。
「痛そうだな。ちょっと待って」
アンリは靴を脱ぎ、シャロンを再び抱き上げると川の中へ入る。
シャロンの身体が濡れないよう川の中から顔を出している岩に座らせた後、傷口を丁寧に洗い始めた。
「アンリの身体が濡れるからそこまでしなくても…」
シャロンは申し訳なさそうに言う。
これ以上濡れたらアンリが風邪を引いてしまう。
「傷口にバイ菌が入ると後々、めんどうだろ?…こんなもんか」
アンリはシャロンを連れてさっきの石の元へ来るとシャロンを下ろしてから、枯れ木を集めて火をつけた。
「ちょっと、ここを離れるから何かあったら叫んで呼んで」
アンリはそう言って森の中へと消えていった。