わだかまり
ヒューディーク村を旅立って三日が過ぎた。
アンリとシャロンは大分離れて歩いていた。
端から見れば二人が同じ目的で一緒に旅しているとは思えない。
それはアンネと別れて直ぐの事がきっかけだった。
‐三日前‐
自分の為に呪いを半分受けてくれたんだからもっと、親しみを込めて話しかけなければ。
シャロンはそんなことを考えながら、アンリからちょっと離れて隣を並んで歩いていた。
ずっと横で唸るシャロンを見てアンリはため息をつくと立ち止まった。
それに気づいて、シャロンも歩くのをやめた。
「どうしたの?」
「もうすぐ夜明けだ、少し休もう。…俺は何か狩ってくるから、火を起こしといてくれ」
アンリはそれだけ言い残して森の歩道を外れて獣道へと入っていった。
シャロンは何か言いかけたが、肩を竦めて枯れ木を集めるとそこへ手をかざす。
『音を立てて静かに燃えなさい』
シャロンの呪文により枯れ枝に火が灯りパチパチ音を鳴らす。
シャロンは小さくため息をつき、その場に座り込み火に当たった。
「やっぱりアンリと仲良く話すの難しい…」
小さい頃から植え付けられてきたアンリ嫌いは頭でわかっていてもなかなか治すのが難しかった。
そんなとき、草むらからアンリが兎を片手に戻ってきた。
シャロンはアンリを見て一度、ビクッと肩を震わせた。
「…」
アンリはそれを無言で見たあと、懐からナイフを取りだし手慣れた手つきで兎を捌く。
それから肉を木の枝に突き刺し焼き始めた。
皮は魔法で出した水で綺麗に血を洗い流し毛皮にして火の近くで乾かす。
これで多少は次の町で売れるだろう。
シャロンは肉が焼けるのをじっと焼けるのを見ながらアンリに何て声を掛けるか悩んでいた。
「なぁ…」
突然、アンリに声を掛けられシャロンは驚いて跳ね上がる。
「は、はい!」
「俺の事、嫌いなんだろ?なら、無理して話しかけることは無い」
「…え?」
アンリが言っていることに一瞬、理解できなかった。
アンリは焼けた肉をシャロンに差し出し、自分の分も取ると肉にかぶりつく。
「ね、ねぇ?どういう意味?」
「そのままの意味だ。ずっと怖い顔して唸ってただろ?そんな調子だと旅が続かないぞ。嫌いなら話しなんてすること無い。一緒に歩いてるときは離れて歩けばいい。…そうだな、たまたま同じ場所に向かう通行人とでも思えばいい。ただ、食事の時と休憩時、あとは寝るときは一緒にいること。それだけ守ればいい。寝るときは見張りを交代でして寝る。盗賊とかいるからな」
アンリの言葉にシャロンは無言で頷き肉を食べた。
それを気にシャロンは自分から声を掛けなくなり、アンリも必要なこと以外声を掛けなくなった。
しかもそれ以来、アンリはシャロンの事を“アシス”と呼ぶようになったのだった。
内心、シャロンはそうなって安心したのと同時に罪悪感で胸が一杯になった。
結局、アンリの案を甘えて受け入れてしまった自分は酷い人間だと思えた。
シャロンは立ち止まってかなり先を歩くアンリの背中を見つめた。
それでもやっぱりアンリを好きになれない…。
シャロンはため息をついて歩き出すが足に鋭い痛みが走り、歩みを止める。
村からあまり出たことの無いシャロンにとって三日間も歩くのはかなりきつかった。
靴擦れが出来、多分靴の中は血だらけだろう。
昨日から痛かったがアンリには言っていない。
こういうときだけ甘えるのは卑怯だと思ったし、アンリにこれ以上借りを作るのも嫌だった。
「せめて回復魔法が使えればな…」
シャロンはため息をついて痛みに堪えてアンリの背中を追うために歩き出した。