方法
本にはアンリの言う通り、魔族についてこと細かく書かれていた。
魔族の歴史や王族、魔族に使えている種族や魔族の宝である石の話。
そして、人間を魔族にする呪いの仕方も書かれていた。
そのページは何度も読み返された痕があった。
コロナが本気で魔族になりたかったのだとよくわかる。
「どうして…」
シャロンは本を閉じて、コロナの墓を見つめた。
「コロナはよくここで泣き叫んでた」
突然のアンリの言葉にシャロンは驚いて振り返った。
「え…?」
「彼女は前からずっと、夜遅くにこの湖に来て泣き叫んでた」
「アンリとコロナは知り合いだったの…?」
シャロンの質問にアンリは首を横に振った。
「俺はヒューディーク村の人と関わらないって誓ってたからコロナに姿は見せたことない。ただ、魔物がコロナを襲わないよう見張ってただけ」
アンリはそう言って顔をしかめた。
「一ヶ月前くらいから、コロナはここに来ると俺を呼び始めたんだ。話しがしたいって。今思えば、魔族にして欲しいと頼むつもりだったのかもな…。もし、あのときコロナと会っていたらこんなことにはならなかったのか?…だとしたら、今回のことは俺のせいだな」
アンリはコロナの墓を見ながら呟いた。
「違うよ…。アンリのせいじゃない。コロナの憎しみに気づいてあげられなかった自分のせい。コロナをここまで追い詰めているなんて知らなかった…。私がコロナを殺したのと同じなのよ。」
シャロンは一筋の涙を零れ落としながら笑った。
それを見てアンリの胸がズキリと痛む。
頑なに、コロナの事を避けていなければ止められたかもしれない…。
この子に辛い思いなんてさせずに済んだかもしれない。
全部自分のせいだ…。
アンリはグッと唇を噛みしめた。
だから今度こそ、シャロンを助けたい。
アンリは強くそう思う。
こんな自分でも誰かを救えるのなら…。
「俺と呪いを解きに行かないか?シャロン・アシス」
「呪いを…解く…?ちょ、ちょっと待って!この呪いは解けないんじゃないの!?」
「解く方法が一つだけある」
「方法?」
「魔族が住む、深淵の森の奥深くに魔王が住む城がある。そこには【魔王石】って呼ばれる宝玉がある。それに触れれば呪いは解ける」
「それって魔族の本拠地に乗り込むってこと!?」
シャロンの言葉にアンリは頷いた。
「冗談でしょ!?そんなところに行ったら殺されるわ!それに私もアンリもエドウィンに負けてる!そこへ行けば二人ともエドウィンに殺されるわ!」
「そうかもしれない。だから、シャロンにちゃんと選んで欲しい。共有魔法のお陰で呪いに猶予が出来た。心が呪いに負けなければ、一年間は今のままでいられる。だが、それを過ぎれば…」
「私たちは否応なしに魔族になる」
「そうだ。俺たちは運命共同体だ。二人で【魔王石】に触れなければ呪いは解けない。だから、シャロンが行くと言うなら俺がシャロンを守りながら深淵の森に連れて行く。行かないなら、仲良く魔族になる。…どっちを選ぶ?」
シャロンは魔族の本を胸に抱きしめ、乾いた唇を舐めた。
どうしよう?このままここに居ても魔族になってしまう。
でも、魔族の本拠地に乗り込むなんて…!
正気の沙汰とは思えない。
だけど…。
「本当にこの方法だけなの?」
「ああ…」
シャロンは深呼吸をして、アンリを見つめた。
「わかった。なら、呪いを解きたいの。…一緒に来てくれる?」
アンリは無言で頷く。