湖へ
「あ、ここって…」
シャロンは外に出で驚く。
家の外は森だった。
村人で森の中に家を建てている人など誰もいない。
つまりこの家は…。
「アンリの家…!?」
「ええ。アンリも私の弟子の一人なので、家を少し借りました」
いつの間にかシャロンの隣に現れたアンネがサラリととんでもないことを言う。
「あ、アンリも師匠の弟子なんですか!?」
「そうです。私は彼が間違った道に行かぬよう導かなければなりませんから。…この先をまっすぐ行けば湖です」
アンネはそれだけ言うと、村の方へと歩いて行ってしまった。
アンリの家の前に残されたシャロンは一人、呻き声をあげた。
「うう…。やっぱり行かなきゃだめ?一人で?…もし、襲われたらどうしょう…」
そこまで考えてシャロンは苦笑した。
もう、半分でも魔族になるのなら死んでも構わないんじゃないだろうか?
親友にも裏切られて、呪われたって知られたら母にも嫌われるかもしれない。
どうせなら自分が死んだことによって母には悲しんで欲しい。
そう思ったら、シャロンの足は自然と湖の方へと歩き出した。
すっかり暗くなった森をシャロンは木々の間から差し込む月明かりを頼りに歩く。
森の中は静かで、自分の呼吸の音と足音だけしか聞こえない。
まるでこの世界には自分しかいないように思えた。
そんなことを考えていると、ついに湖についた。
森が開けた事によって遮るものがないので、月明かりが辺りをまんべんなく照らしてくれているお陰でアンリはすぐに見つかった。
湖の反対側でこちらに背を向けて何かしていた。
シャロンは首をかしげてアンリの方へと向かう。
アンリは何かに一生懸命でシャロンが近づいた来ていることに全く気づいてない。
こんなに隙だらけで森に住んでて平気なの?
すぐに魔獣や魔物にやられてしまいそうだけど…。
シャロンはアンリの後ろに立つと何て声をかけようか迷う。
「…さっきは悪かったな」
突然アンリに声をかけられシャロンはビクッとする。
「気づいてたの?」
アンリはシャロンに背を向けたまま頷く。
「気配ですぐわかった」
「そっか…。何してるの?」
シャロンの問にアンリは立ち上がり、脇にずれた。
シャロンは驚いて目を見開いた。
そこには小さなお墓があった。
墓石には【コロナ・ヴェルディここに眠る】と書かれていた。
「墓は必要だろ?眠る場所がないのは可哀想だからな」
「うん…そうだね」
シャロンは頷く。
花かなにかを飾りたいけど、ここは赤い花に埋め尽くされてるから目立たなそうだ。
そんなことを考えてから、シャロンはしゃがむと手を合わせた。
どうか安らかに…コロナ…
シャロンがコロナに祈りを捧げたあと、目を開くとアンリが目の前に本を差し出していた。
「…これは?」
「魔族について書かれた本。コロナの家にあったんだ。前に俺も読んだ覚えがあるから、多分師匠の家の本だと思う」
シャロンは立ち上がるとその本を受取り、中をパラパラめくった。