下船
その時、魔導船が少し揺れ出し乗務員が忙しそうに動き出した。
「そろそろ着くみたいだな」
「そうだね」
今は気分を変えよう。
アンリに好きな人が居たって自分には関係ない。
だって、私はアンリの事なんて好きなんかじゃ…。
不意に魔導船が大きく揺れた。
「キャッ!」
バランスを崩すシャロンをアンリが咄嗟に抱き寄せた。
「びっくりした…大丈夫か?」
「う、うん!大丈夫!!ありがとう!」
そう言ってシャロンは慌ててアンリから離れると赤くなったであろう顔を隠すためにそっぽを向く。
「ご搭乗のお客様、グランファルーゼンに到着しました。只今より下船を開始いたします」
乗務員の掛け声により出口に人が集まり出す。
「もう少し待たないと降りれなそうだな」
「だね…。ところでグランファルーゼンで何買うの?」
「冬用の衣類とか買おうと思ってる。安く手に入ればいいけど」
アンリの言葉にシャロンは首を傾げた。
「まだ焦燥の月なのに?まだ一ヶ月くらいあるよ?」
「わかってる。俺たちはこれから妖精の森を通るだろ?あそこは時間軸が普通とは違う。森の中で五日過ごした筈だったのに森の外では一ヶ月も時間が流れてたりするんだ。…森に入った時は焦燥の月でも出る時には悲哀の月。悲哀の月は短いから眠りの月はあっという間に来る。森から出てすぐ凍死するのは嫌だろう?」
「それは嫌ね」
シャロンはうなずく。
「眠りの月が来たら次は謳歌の月…。一年ってあっという間ね」
シャロンがポツリと呟くと、アンリがその手を握る。
「大丈夫だ。謳歌の月が来るまでに呪いを解こう」
「そうだね。…ありがとう」
シャロンが微笑むとアンリも笑い返す。
「少し空いてきたな。降りよう」
アンリはシャロンの手を引いて、出口の波へと入って行った。