国家公認魔法使い
「もうあんなに街が小さくなっちゃった」
シャロンが身を乗り出しながら呟く。
「その代わりにグランファルーゼンは大きくなって来たな」
アンリの言葉にシャロンも振り返り、空を見上げグランファルーゼンを見つめる。
近くに迫って来たせいで街というよりは大きな岩が浮いているようにしか見えない。
「あの上に街があるなんて想像つかないわね」
「だな。でも、あそこには国家公認魔法使いの学校がある。…俺の目標だった場所だ」
アンリは感慨深そうに呟いた。
本来なら、ここへは試験を受けるために訪れる予定だった。
予定とはだいぶ変わってしまったが、それでも学校を一目見れるのと思うと胸が高鳴る。
「アンリは国家公認魔法使いになりたいんだよね?」
「あぁ、俺の目標の一つだ」
目を輝かせるアンリにシャロンは少し後ろめたい気持ちになり、再び海を眺める。
「ごめんね、アンリ。…こんなことに巻き込まなければ今頃は…」
「気にするな。シャロンのせいじゃない。俺が好きで巻き込まれたんだ。それにこの旅が終わってから試験は受ければいい」
アンリはそう言ってシャロンに笑いかける。
「その時はシャロンも一緒に受けに来よう。お前だって国家公認魔法使いになりたいんだろ?」
「…うん!」
旅が終わったら、アンリとの関係はもう終わりだと思ってた。
アンリからそう言ってもらえた事が嬉しくてシャロンは少し顔を赤くして頷き、照れ隠しに前から気になってた事を聞いてみることにした。
「ねぇ?なんでアンリは国家公認魔法使いになろうと思ったの?」
「…まぁ、罪滅ぼしっていうのもあるかな」
アンリは太陽の光を浴びてキラキラ輝く海を眺めながら言った。
「親父がした事は俺が償わなきゃな…それに」
「それに?」
「前に一度、ある女の子に助けてもらった事があるんだ。その子は俺が村で嫌われてるアンリだなんて知らないからさ、知ったらすごく怖がると思うんだ。でも国家公認魔法使いになって会えば少しは怖がらずに話を聞いてくれるかなって」
アンリは恥ずかしそうに頰を掻く。
「その子に胸張って会って言いたいんだ。親父とは違うってさ。…だから親父みたいに殺人衝動に駆られるわけにはいかない」
最後の言葉は自分に言い聞かせるように呟いた。
「その子はアンリにとって大切な人なんだね」
「そうだな…俺が暴走しないでいられるのは彼女のおかげだしな」
アンリの言葉を聞いて、シャロンは目を閉じた。
なんていうか、それって…。
「アンリの好きな人…」
シャロンの言葉があまりにも小さ過ぎて、アンリが首を傾げた。
「え?何?」
「ううん、なんでもない」
シャロンはチクリと痛む胸を抑えて笑顔で首を横に振った。