別れ
シャロンと共に食堂に入ると、すでにラインとティアが食事をしていた。
「あ!おはようございます」
チョコレートスコーンを頬張っていたティアが二人に気づいて声をかける。
「おはよう、ティア。今日は早いんだな」
いつもは朝食が終わる頃に合わせてティアが屋敷を訪れているのに今日は一緒に朝ごはんを食べているのを珍しく思いながら、アンリが言う。
「今日はお二人とお別れの日ですから。当たり前じゃないですか」
「アンリ達には世話になったからね。少しでも長く一緒にいたいって言うから朝食に招待したんだ。いつも誘ってるのに来ないけどね」
「毎朝来てたら迷惑じゃないですか」
「僕は毎日来てもらった方が嬉しいな」
ラインの言葉にティアが顔を赤くするのを見ながらシャロンは苦笑しながら席に着き、パンを手に取り囓る。
「はいはい、朝から仲良くてよかったわねー」
「シャロン!からかわないでくださいっ!」
“もっー!”と顔を真っ赤にさせるティアをなだめながら、ラインはハッとした顔をする。
「そういえば、魔導船の出発時間は何時なの?」
「あー、確か朝だったな」
アンリはポケットからチケットを取り出して時間を確認する。
「…?」
首を傾げ、時計を見てからもう一度チケットに目線を落とす。
「…だ」
「え?どうしたの?」
アンリの声があまりに小さくてシャロンが聞き返す。
「後、十分だ」
「「「…」」」
一瞬の沈黙。
ーーー、そして。
「やっばいじゃんっ!」
シャロンが椅子を倒しながら叫ぶと、頭を掻き毟る。
「え?今から間に合う!?」
「走るしかないだろっ!まず荷物取ってくる!!シャロンは先に外に出てろ!」
アンリは言うのと同時に食堂を飛び出し、自分達の部屋から荷物を取ると窓を大きく開け放つ。
「シャロン!」
「はい!」
アンリの呼び声にシャロンが走って窓の下まで来ると、シャロンのバックを投げ渡し
アンリも窓から飛び降りる。
「わっ!」
シャロンはバックを受け取り慌てて逃げる。
「っと」
シャロンがいた所にアンリは着地すると彼女の手を掴んで走り出す。
「走るぞ!」
「あ、うん!」
アンリはシャロンの手を引きながら全力で街を走り抜ける。
その後を息を切らしながら、ラインとティナが追いかけて来る。
「アンリ、もー無理!」
「見えた!もう少しだ!走れ!!」
アンリはポケットからチケット取り出すと受付押し渡した。
「もう少しで出発ですよ!早くお乗りください!」
アンリ達が渡したチケットを確認しながら受付が言う。
「わかりました!」
二人は息を整えると振り返って、自分たちの後を追いかけて来たラインとティナに手を振る。
「ゆっくりお別れできなくてごめんっ!ティナ達に会えてよかったよ!」
「わ、私も!私も、シャロンとアンリに会えてよかったです!本当にありがとう!どうか元気で!」
涙を流すティナの肩を抱きながらラインも手を振る。
「二人には感謝しきれないよ。本当にありがとう。旅の成功を祈ってるよ」
「ああ、ありがとう。二人も元気で」
アンリはそう言ってシャロンの肩を叩く。
「行こう」
「うん」
シャロンは涙を拭いて、もう一度二人に手を振りアンリと共に船に乗り込んだ。