葬い
「ゴホッ、ゴホッ…!」
床に座り込み咳き込むエドウィンを鼻で笑うとフェンネルは背を向けた。
「早くゴミを処分しろ。それか、お前が作ってるイミテーションにでもしたらどうだ?魔族なら、いい物が作れるんじゃ無いのか?…話はそれで終わりだ。出て行け」
フェンネルの言葉に唇を噛み締めると、無言でミラを抱き抱えてエドウィンは部屋から出る。
「ミラ…ごめん…」
エドウィンはそう言ってミラの亡骸をギュッと抱きしめると、意を決して歩き出した。
ミラを死なせてしまったのは全部自分のせい。
自分のわがままのせいだ。
どんなに謝ってももう彼女に届くことは無いし、許してもらえることだって無い。
エドウィンの目から涙が伝い落ちる。
たった一人の親友だったのに。
思い返せばきっとミラは自分の計画を気づいてたのだろう。
最後の別れ際、あの時の悲しそうな表情がそう思わせた。
エドウィンは城の中で一番広いベランダに出ると、何の迷いなく縁に足を掛けるとその場から飛び降りる。
エドウィンは重力に従いグングン下へと速度を上げて落ちて行く。
「…ルフ、来い」
呼び掛けに空から弾丸のような速さで大怪鳥、ルフが現れると、落下するエドウィンを背中で受け止め、大空へと舞い上がる。
「すまない、今すぐ妖精の森に向かってくれ」
ルフは一鳴きすると、朝日に大きな翼を輝かせながら優雅に羽ばたかせて妖精の森へと向かう。
エドウィンは腕の中で冷たくなって行くミラの顔を覗き込んだ後、もう一度抱きしめた。
「ごめん」
ポツリと一言呟くと、ミラの身体を一瞬で凍りつかせた。
凍りついた身体はピキピキ音を立てて、やがて粉々に砕けちり太陽の光を浴びてキラキラと風に流されて行く。
ミラをイミテーションになんて出来るわけがない、だから自分に出来ると言えばこんな葬い方しか出来なかった。
遺体が無ければミラをイミテーションにすることだって出来ない。
「安らかに眠れ、ミラ」
エドウィンは親友の為に目を閉じて祈りを捧げる。
「だからやめろと言ったのに…」
深い森の中にある泉の前で一人の女性が悲しそうに呟いた。
頭に鹿のような大きな角を生やした女性はゆっくりと首を振った。
「ミラが死ぬ未来はやはり免れることはできなかったか…」
人々の平和を願う心の優しい若者であったのに。
「いつの時代もそういう者から死んで行く…悲しき事よ」
もうすぐ彼らが来る。
全ての運命が動き出す。
時を司る宝玉を所有するアンダルシアは全ての時を知る。
そして少しでも未来を良い方向へ持っていけるよう己の全てを捧げる覚悟をアンダルシアは静かに
決めた。