現実
シャロンはゆっくりと目を開いた。
見慣れない木製の天井にシャロンは何度か瞬きをして思い出そうとしたが、ここがどこなのか思い出せない。
「ここはどこ…?」
「シャロン?目を覚ましたのですね!」
すぐ横でアンネの声が聞こえ、シャロンは首を横に動かす。
そこには安堵の表情を浮かべるアンネの姿があった。
「師匠…?」
「気分はどうですか?」
「大丈夫です。…そういば、少し怖い夢見ました。魔族が出てきて襲われるんですけど、見たことのない男の子が、助けに来てくれたんです。その時、その子がアンリだって直感で気づい…て…それで…それで…」
シャロンはそこまで言って目を見開いて寝かされたいたベッドから飛び起きた。
「コロナは…?コロナはどこにいるんですか!?師匠!!!死んでないですよね!?」
ガタガタ震えながら叫ぶシャロンをアンネは優しく抱きしめた。
「…シャロン、ごめんなさい。私の力が足りずにコロナを助けてあげることが出来ませんでした…」
シャロンはぎゅっとアンネにしがみつく。
「やっぱり夢じゃないんですね…!コロナは…コロナは…!う、うぅ…うわぁぁぁああぁぁああっ!」
夢ならどんなに良かっただろう。
コロナに夢の内容を教えて、酷いなんて冗談半分で怒られる。
二人で笑いながらそんな話が出来たのに。
もう出来ない。二度と。
コロナが自分のことが大嫌いだったことも、村の人々を恨んでいたことも、魔族になるために自分を生け贄にしようとしたことも、全部本当。
全部、現実。
こんな最低な現実なんていらない。
「シャロン、辛いのはわかりますがもっと重要な事を話さなければなりません。聞いたください」
アンネに背中を擦ってもらいながら、シャロンは涙でグシャグシャになった顔を上にあげる。
アンネは苦笑すると、ハンカチを取りだし顔を拭いてやった。
「可愛い顔が台無しですよ?…シャロン、あなたは呪いをエドウィンに掛けられてしまいました。覚えていますか?」
アンネの言葉にシャロンは首をかしげた。
そして、その時の記憶が甦りシャロンは背筋を震え上がらせた。
コロナの心臓から滴る血を飲んだこと。
エドウィンが呪文を唱えた瞬間、身体にすさまじい痛みが走り抜けたこと。
あの痛みは生まれて初めて経験した。
あの痛みをもう一度味わうくらいなら死んだ方がマシだとさえ思える。
それから…。
そこまで思い出してシャロンは顔を赤らめて首を横に震る。
最後のはいらない。
思い出さなくていい。
重要なのはそれじゃない。
「わ、私はエドウィンに何をされたのですか?」
「落ち着いて聞いてください。エドウィンはあなたに…」
アンネはシャロンから視線を外した。
そして、意を決して口を開いた。
「魔族になる呪いをかけられました。恐らく、元々はコロナがかけてもらう予定だった呪いです」
アンネの言葉にシャロンはぐらりと頭が揺れ、目の前が真っ白になる。
私が魔族になる?
村人を殺した魔族に…?
父を殺した魔族に私がなる?
「そ、そんな…」
シャロンは恐怖で吐き気が込み上げてきた。
魔族になんかなりたくない。
シャロンは震える両手を強く握りしめた。