喪失
とびらの解呪を試みていたエドウィンは、ハッとして閉じていた目を開いた。
扉の鍵が開いたのだが、それは決してエドウィンの解呪が成功したわけではない。
自分を拒んでいたミラの魔力が突然失われたのだ。
「…」
エドウィンはゴクリと喉を鳴らし、恐る恐るドアノブに手を伸ばす。
嫌な予感しかしない。
でも、このまま立ち去るわけにもいかない。
一つ、息を吐き出して扉を開けた。
「…っ!」
開いた瞬間、エドウィンはその身体を凍りつかせた。
目の前には己の剣に胸を突き刺され、宙に浮くミラがいた。
ピクリとも動かずに、その足元には血だまりが出来ている。
「ミ、ラ…」
「エドウィン、来たか」
エドウィンの声に反応してミラを突き刺す剣を持つフェンネルは、そう言って剣を振りミラの身体をエドウィンの足元まで投げ飛ばした。
ミラの身体はグシャっと音を立ててエドウィンの足元に転がり、虚ろな目でエドウィンを見上げる。
少し前まで笑顔で話していた親友の姿に発狂しそうになるが、エドウィンは唇を噛み締めて耐えると、しゃがみ込みミラの頰に触れる。
まだ暖かいが、それもすぐに失われる。
「そのゴミを片付けろ。私を殺そうなどと、全く愚かな考えだ」
ミラはゴミじゃない。
そう言い返したいのに、言葉は口から出てこない。
エドウィンはミラを抱き上げる。
「…部屋の掃除を、オルガに頼みます」
エドウィンの申し出にフェンネルはつまらなそうな顔をした。
「オルガはいない」
「え?」
「オルガは今、妖精の森へ行き“妖精王石”を奪いに行った」
予想もしなかった言葉にエドウィンは目を見開き怒鳴る。
「正気か!?“妖精王石”なんて必要ないだろう!そんな事したらオルガはアンダルシアに殺されるぞ!」
「それがどうした?あいつは少々、私に忠誠心が足りないからな。そこで死んだところで何の問題もない」
「貴様…!」
「勘違いするな」
フェンネルは一瞬でエドウィンとの間合いを詰めると彼女の白い首を掴み締め上げる。
「くっ…」
首を締め上げる強さにエドウィンは小さな悲鳴を上げて、ミラを落とした。
「私と貴様の願いが合致したから契約したのだ。貴様の言いなりになるつもりはない」
フェンネルはエドウィンの首から手を離す。