就任
あんなに必死な彼女は久しぶりに見たとミラは思う。
そして、それが自分に向けられたものだと思うと嬉しく思えた。
こんな状況じゃなければ、今すぐこの扉を開けてエドウィンをギュッと抱きしめているところだった。
ミラは苦笑すると、玉座に座る男の方を見た。
眠そうな顔をしてこちらを不機嫌そうに見る男は、ミラが今まで会ってきた歴代の王とは全く違い威厳も何も感じられなかった。
こんな男をよく魔王石は王として選んだものだと、内心呆れる。
「こんな時間の謁見のお許しを心より感謝いたします、陛下」
ミラはそう言って魔王、フェンネルの前まで来ると膝をつき深く頭を下げた。
「そして、陛下の魔王就任を我ら一族を代表しましてお祝いを申し上げます」
「…ミラ・ノーバディ、か。確かノーバディの一族は初代の魔王に特別な命令を受けたらしいな」
ミラは顔を上げると、笑顔で頷いた。
「はい、我々は代々魔王石が浄化しきれなかった魔力…我々は淀みと呼んでいますが、それの除去が主な使命です」
ミラの説明をほとんど興味なさそうに聞くと、フェンネルは欠伸を噛み殺し頷いた。
「ご苦労だな。ならばその使命お前の命が尽きるまで全うすればいい。他に話がないなら終わりにするが?」
「あとお伝えすることが二つございます、陛下」
「二つ?」
「はい、一つ目は私が若輩者ではございますがノーバディの当主に就任致しました報告です」
ミラはそう言って再び深く頭を下げた。
「で?もう一つは?」
フェンネルの言葉にミラはそっと懐に手を入れた。
「もう一つ、歴代の魔王でさえ知らない我々の秘密です」
「秘密?」
ミラのこの一言でようやくフェンネルが玉座から身を乗り出し興味を示した。
「はい、他の者も知らない秘密…それは、魔王が正しい判断が出来ずに間違った判断を下した場合我々が魔王を処罰をする事です!」
ミラはそう言い放って懐からナイフを取り出すとフェンネルに向かって投げ飛ばした。