予感
去って行く、ミラの背中を見送り自分も自室へ戻ろうと歩み出す刹那、不意に胸がギュッと何かに締め付けられるような感覚に襲われた。
「…?」
エドウィンは胸を押さえると首を傾げた。
何故か胸が騒つくのだ。
(今度こそ、さよなら)
別れ際のミラの挨拶が脳裏に蘇る。
「…っ」
普段のミラなら絶対そんな挨拶をしない。
彼女はいつも「またね」と言って別れるのだ。
「さよなら」はもう二度とその人と会えなくなる気がして嫌いなのだと言っていたのを思い出す。
「あの馬鹿…!」
エドウィンは慌てて走りだした。
ミラが何を考えているのかわかった今、彼女を全力で止めなければ。
エドウィンは魔王の部屋へと急ぐ。
こんな時にオルガが居てくれればと思ってしまう。
きっと何でもわかるあいつならミラをもっと早く止めることが出来ただろう。
そんな事を考えていると、ようやく部屋に入ろうと扉に手を掛けているミラを視界に入る所まで来た。
「ミラ!ダメだっ!」
エドウィンの声にミラは驚いて振り返り、彼女の必死な表情を見て言いたい事を察したのか、笑みを浮かべて手を振る。
「ミラ!」
エドウィンの制止も聞かずにミラは笑顔のまま扉を開けると中へと入って行き扉を閉めた。
あと一歩のところで間に合わなかったエドウィンは閉め出しを食らったが、すぐに部屋へと入ろうとドアノブを握りしめて引いた。
いつもならこれで開くはずなのに今日は開かない。
「何で…!ミラ!開けろ!!ミラ!!」
自分でも情けないと思う程、涙声になりながら扉を叩き叫ぶ。
ミラに届かなくてもいい、魔王にさえ聞こえていればきっと自分を咎めるためにこの扉を開く。
その時にミラを連れ出せばいい。
そう思ったのに扉は一向に開こうとしなかった。
「…くそ、馬鹿…」
魔法だ。
ミラが魔法で扉を閉め、外の音を絶っているのだろう。
解呪すればいいのだろうが、そういうのは苦手だ。
それでもやるしかない。
エドウィンは一つ頷くと、意識を集中させて扉にかけられた魔法を解き始めた。