幸せを
「アンリの、おかげで救うことが出来た…。あり、がとう…」
ああ、瞼が重い。
シャロンは何度か閉じる瞼を強制的に開く。
まだ寝たくない。
ティアとラインの再会だってちゃんと見たいのに…。
そして意思に反して閉じる瞼に悪態をつく。
「目が開かなくなって…。魔力を使い切るってこんなに大変なん、だ…」
「決まってるだろ?俺だって気絶したくらいだ」
遠くなって行く意識の中で聞こえるアンリの声にシャロンは苦笑して頷いた。
「だよね…ああ、もうダメ。耐えららない…」
どんなに開こうともがいても瞼がついに上がらなくなってしまった。
「無理するな、もう寝てろよ」
そんな言葉と同時に身体がフワリと浮かんだ。
アンリが抱き上げてくれたのは容易に想像できる。
そう言えば最近何度もアンリに抱き上げてもらってる気がする。
お礼を言わないと…。
そう思うのと同時にシャロンの意識はズルズルと闇の中へと堕ちていく。
「おやすみ、シャロン」
腕の中で規則正しい寝息を立て始めたシャロンにそう言ってアンリは笑うと、目の前で泣きながら抱き合う二人を見つめた。
シャロンが諦めなかったから助けることが出来た二人を見て、心が暖かくなるようなそんな気がした。
「シャロンは本当に英雄の娘だな。…人をこんなに幸せにすることが出来るんだもんな」
きっとシャロンが起きていたら『アンリの方が』と言い出すだろう。
だが、そんな事を知らないアンリは素直に感心する。
シャロンをどこかに降ろして寝かせてやりたいが、ちょっと動いたら二人に水を差してしまいそうでなかなかタイミングが掴めない。
「まぁ、もう少しこのままでもいっか。…シャロンには悪いけど」
アンリはシャロンの寝顔を見てからもう一度、二人に視線を戻す。
ティアとラインが“愛し合ってる”のよくわかる。
ただそれは、小説などに書かれてる表面上の事を理解しているだけで心で理解しているわけではない。
誰かが自分を愛してくれて、自分も誰かを愛すなんて事は一生絶対に無いだろう。
そんな事、最初からずっとわかっていたのに何故か胸がズキンっと痛んだ。
こんな事今まで無かったのに。
手に入らないものは何も望まない。
そう決めているし、それは今後も変えるつもりはない。
アンリがそう決意し直していると、ティア達が仲良く手を繋いでこっちに向かって歩いてくるのが目に入り、考え事を深く胸の中にしまい込むと自分も二人の元へと向かった。