最後に
ラインが大人しくなった事にアンリに感謝する。
これでラインにちゃんと歌を聴いてもらえる、後は癒しの歌を歌いあげるだけだ。
歌うごとに身体の中の魔力が失われ泡に変わっていくのがわかる。
本当にもう最後なのだと、実感した。
それでも、ティアは歌うことをやめない。
どんなに苦しくたって怖くたって、全てはラインの光を取り戻すために歌い続ける。
歌うティアの目から一筋の涙が零れ落ちた。
ごめんなさい、父様。家族を捨てて。
ごめんなさい、姉様。願いを踏みにじって。
ごめんなさい、アンリ。こんな事を頼んで。
ごめんなさい、シャロン。騙すような事をして。
ごめんなさい、ライン。せっかく目が見えなくても前向きに生きようとしていたのに、その決意を踏みにじって。
ごめんなさい、こんなわがままな私で。
ティアは目を開き、アンリに支えられるラインを見て微笑んだ。
ごめんなさい…。
その刹那、喉から泡がせり上がってくるのを感じて噎せたがすぐに歌を続ける。
身体がもう限界だと悲鳴をあげていた。
お願い、もう少しだけ…!
必死に願うが無情にも魔力はもう尽きかけている。
後少しで歌い終わるのに…!
ガクン、足の力が抜け砂浜に崩れ落ちるが歌はやめない。
お願いだから、歌わせて…っ!
もう、足も手も感覚が無い。
身体の中でプチプチ泡が弾けるような感覚だけが神経を支配していた。
ついには視界も霞んできた。
完全に泡になってしまう前に彼を見たいと、ラインに視線を合わせると辛うじてラインの顔を捉えることができた。
・・・・・
ピタリと目が合った。
ティアはそれに気づいて思わず歌を止めてしまったがもう構わなかった。
ラインにまた光を見せることが出来たのだから。
「よか、った」
ティアは泣き笑いをしながらそう呟くと、そのまま後ろへと倒れていく。
そして、ティアはゆっくりと瞼を閉じた。