ずっと一緒にいたい
「そんな事したらティアは…!」
“消える”
その一言が言えなくてラインは言葉を詰まらせた。
真っ暗闇の中でティアの存在を確認したくて手を伸ばすが手は宙を掴むだけで、彼女には届かない。
ティアもあえてラインに手を伸ばさない。
「ティア!」
触れていなければ、声を聞いていなければ存在がわからない。
ラインの必死の呼びかけに、ティアは目を閉じて深呼吸をしてから呼び声に応じた。
「ライン、ごめんなさい」
静かに告げるその声にラインは首を横に振った。
「目なんか見えなくてもいい…!僕にとっての光はティアなんだよ!それなのに、僕のせいで消えないで…頼むからっ!」
「聞いて、ライン。私の魔力はどんどん失われていくんです。…遅かれ早かれいつかは泡になって消えてしまいます」
込み上げてくる涙を必死に耐えながらティアは告げた。
「どうせ泡になってしまうなら、貴方の為に歌いたい。貴方の目を癒して泡になりたいんです。…私、前までは人魚であることがすごく嫌でした。ラインが人間である以上私たちはずっと一緒にいられないから。どんなに愛してても貴方の隣で生きてなんかいられないから」
「そんなことない!」
必死に両手を前に出してティアを探していたラインが砂に足を取られて前のめりに倒れた。
顔や服が海水に浸かるが気にすることなく顔を上げ、座り込んだまま俯く。
「種族なんか…関係ない…」
「ありがとうございます。…でも、今は心から人魚に生まれてきてよかったって思えるんです。…大切な人の為に歌を歌えるんだから」
ティアはもう一度深く息を吸う。
準備は出来た。
最後に泣きじゃくるラインの顔を見て目を閉じた。
最後はラインの笑った顔が見たかったけど、仕方ない。
どうか、ラインにもう一度光を…。
ティアが口を開いた刹那、優しく暖かな旋律がルーク語と共に紡がれる。
その歌を聞いて慌ててラインが耳を塞ぐ。
彼女を消してしまう歌なんて聞きたくない。
自分のために命を消費させてしまう歌なんて聞けない。
そんな想いを否定するかのように背後から両手を掴まれ耳から手を引き離されてしまう。
それが誰の仕業がすぐにわかりラインは振り返り睨むような顔をした。
「アンリ…!」
「ライン、聞いてやってくれ。ティアの覚悟なんだ」
「彼女を犠牲にしてまで目を治したいとは思わない!!」
「今、聞かなきゃティアは自分の願いも叶わずに無駄に消えるんだぞ!?」
「…っ」
その一言にラインは苦しそうな顔をした。
「俺にはわからないけど、でも、ラインだってティアと立場が逆なら同じ事してたんじゃないのか?…なら、聞いてやってくれよ。ティアの想いを無駄にしするな…」
アンリの言葉にもう抵抗する気が起きずに、ただ涙を流しながらティアの歌に耳を傾ける。